消費という点では、日本は極めてレベルの高い国です。日本と海外で、同じ消費者調査を行うと、そのことがよく分かります。日本人は、商品知識が豊富で、しかも目が肥えています。
しかし、そういった消費の豊かさに比べて、地域社会は、どんどん荒んでいっているように思います。
もう10年以上前でしょうか、ロンドンで活躍していたイタリア人のデザイナー、ミナーレさんの家に招待されたことがありました。ちょうどクリスマス・キャロルがある日でした。ミナーレさんの子供たちの晴れ舞台ということで、教会に連れて行ってもらったのですが、ショックでした。これが豊かさだと一瞬に感じました。伝統のある荘厳な教会は、地域の人たちで一杯です。そこに子供たちが賛美歌を歌いながら入場してきます。子供たちも真剣そのものです。日本ではどうでしょうか。味もそっけもない学校の講堂で発表会なんかがあるのでしょうが、「親」が来るだけです。地域の人たちが集まってくるわけではありません。
日本では想像もつかないのが、欧米のスポーツの世界です。地域社会に密着しています。サッカーやラグビーは、それぞれの地域にクラブ・チームがあって、地域ぐるみで参加したり、応援したりしています。そのクラブ・メンバーの頂点のチームが地域を代表するチームです。サッカーがそういったチームのあり方を目指し、また釜石や神戸製鋼のラグビー部も目指している姿です。
アメリカの大學のアメリカンフットボールの試合をご覧になったことがありますか。こんな田舎の地域に、こんなに人がいたのかと驚くぐらい人が集まってきます。たいして強いチームでなくともスタジアムには地域の人たちがこぞって応援にかけつけます。また応援ぶりがすごい。阪神タイガースのファン状態です。
大學のひとつのチームが入場料やTVの放映で得る収入が、10数億円というのもざらだそうです。スポーツは地域の暮らしの楽しみそのものなのです。
日本は、道路とか、建物ばかりをつくってきました。ワールドカップでつくった球技場も、いまや財政を逼迫させる原因となっています。新幹線も、高速道路も、「入り口」だと思ってつくると、「入り口」は、大都市圏の企業の「入り口」で、地域の産業は大打撃をうけ、さらに若い人びとの「出口」となって、ますます地域経済を弱らせるということも珍しくありません。
私たちの国は、明治時代の産業を興すという国家政策をそのままひきづってきました。発展途上国の官僚体制のそのままです。官僚の人たちは、書類でしか仕事をしません。生きた現実に触れることもなく、人びとの目線に立つことができないまま、日本をミスリードしつづけ、暴走しつづけてきています。
日本は、不況がつづいてきたとはいえ、いまなお経済大国です。しかし、地域社会は、公共事業がやせ細るにしたがって、どんどん病んできました。
地域に住む人たちが、ほんとうに欲しいのは、道路や建物ではありません。人と人がふれあい、支え合い、こころの充実が得られる暮らしの実現であるはずです。それは、道路や建物をつくるだけでは実現できないことは証明されてきました。
そろそろ、経済で追いつけ追い越せの発展途上国型から、地域のコミュニティづくりを目指した国づくりに大きく転換していかないと、私たちは本当の豊かさを得ることはできないように思います。
今でも地域には、その地域でしか得られない豊かさがまだ残っています。そういった心の豊かさ、文化の豊かさ、暮らしの質にもっと関心を向けていきたいものです。そんな地域の魅力の復活、再構築をめざしたマーケティングをしてみたいと思うのは私だけでしょうか。
ちなみに、東京でも、下町が好きです。いいですね。知らない同士でも、酒を通して仲良くなれます。時々、人形町あたりの居酒屋さんで、常連のみなさん、またお店のみなさんと世間話を肴に飲むことがあります。ほっとします。どんなにチェーンの居酒屋さんが頑張っても、下町の居酒屋さんの値打ちには勝てないですね。「いちげんさん」相手の「ニコニコ、現金、さようなら」ですからね。

追記:ミナーレさんは、今は故人です。ロンドン、パリ、ブリスベーンに拠点を展開するデザイン会社の創業者でした。まるで兄のようにかわいがってくれた昔日のシーンが今も目に浮かびます。
心からご冥福を祈ります。

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