トランプ大統領にとって、外交は国内世論の支持を呼び込むための晴れの舞台のように見えます。北朝鮮から開放された米国人を、早朝にもかかわらず夫妻で迎えたトランプ大統領の満面の笑みは、まさにショータイムがクライマックスに達したことを象徴していました。ひとりひとりを出迎え、抱擁する演技、金正恩に謝意を述べ、さらに「朝3時のテレビの視聴率としては、歴史上、最高記録を出したと思う」と言及したことは、最初から、視聴率を最大化するために仕組まれたイベントであったこと、いかに政治ショータイムとして練られた演出であったかを明らかにしました。
トランプ大統領にとっては、政治は国民が見ている劇場で演じるショーなのです。なかんずく、米国国民が脅威と感じている北朝鮮の核・ミサイルを北朝鮮に放棄させ、脅威を取り除くばかりか、一歩踏み込んで、半島の安定化をはかれば、最高のシナリオとなってきます。さて、では、いったいこのショーの観客は世界中の人びととしても、誰が感動することを狙い、熱狂的なファンにしたいのでしょうか。
まちがいなく、米国のトランプ大統領のコアな支持層です。おそらくトランプ大統領は金正恩との取り引きには自信をもっており、シンガポールで開催される米朝会談で、さまざまな疑惑を吹き飛ばし、9月の中間選挙での圧勝をもたらす結果を引き出してくるのでしょう。
もしそうなら、ぞっとします。日本の拉致問題を取り上げることは、トランプ大統領のショーとしては、ハードな交渉となる可能性が高い割に、米国民の関心を高めない、つまりショーとしての優先順位が高くなさそうだからです。金正恩委員長が、なぜ拉致問題で日本が直接言ってこないのかと言ったことも、米朝交渉には含めたくないという意志の表れなのかもしれません。
政治のショー化は、ナチスが得意としたことです。当時の若い人たちは、ナチスの思想に共鳴したというよりは、親衛隊の制服、そして親衛隊に加わる高揚感で若い人たちがナチスに加わり、洗脳されていったといわれています。そんなショー化の陣頭指揮を行ったのが宣伝相ゲッペルツでした。
そして、現代は情報化が比較にならないほど進化し、高度化し、複雑化してきています。
トランプ大統領が外交のみならず、政治をショーとしてとらえることができたのは、トランプ大統領がもともと思想や理念でものごとを考えたり、行動する政治家ではなく、現実のなかで、支持者を最大化するためには、誰をターゲットとして、なにを主張することが効果的なのかを考え、行動するビジネスマンだからかもしれません。
トランプ大統領にとって重要なのは、理念や理想ではありません。その証拠に民主党と共和党という理念が異なる政党間でも渡れるのです。重要なのは、国民ひとりひとりのマインドの深層に、トランプ大統領の存在を深く刻みこみ、ファン化していくための政策や発言、行動なのです。
つまり、政治のパラダイムが大きく変わります。
なにが正しいかではなく、なにが人びとの心をつかめるのかが鍵になってきます。それはビジネスの世界での「ブランディング」そのものです。政治もブランディングが重要な時代になってきています。ブランドとしての価値を高めること、そのための装置や舞台、またシナリオの質こそが問われている時代だということではないでしょうか。
55年体制が終わるとともに、政治のなかでは従来の「保守」「革新」という思想の枠組みが意味を失い、むしろ政治に問われてきているのは、課題解決力と、信頼性の高さです。
そう考えると、日本の政治は周回遅れのように思えます。
モリカケ問題での与野党の攻防は酷いものでした。野党の行動の狙いが政権のダメージを狙うものでしかなく、審議拒否は結果として、ブーメランのように自らをも傷つけました。そして与党は、与党で、国民が望んでいる疑惑の解明ではなく、火消しと幕引きを狙った国会運営をやってしまって、さらに信頼を失いました。
つまり、どちらも政治を「戦闘」「権力闘争」としてしか考えようとせず、政治は、国民のマインドをどちらがとらえ、共感されるのかを競う「コンテスト」だという視点を持っていません。政治の主役は国民だという認識が欠けているのです。ネットでも、馬鹿げた対立が起こっています。極端な思想と思想で、互いを罵り合い、正しいのは自分たちで、気に入らない人たちは非国民だ、反日だと非難する始末です。
ブランドという視点で言えば、安倍内閣は世論調査を見ても、ブランドとしての信頼性を致命的に毀損してしまいました。信頼を失うと、それこそ一発逆転の満塁ホームランでもでなければ、政治のリーダーシップを回復することは難しく、リーダーシップを持たなければ外交での存在感も薄れてきます。安倍総理が自らの使命のはずの改憲で、自衛隊が違憲だと教科書で学んでいると、すぐにわかるような嘘をついているようでは、ブランドへの信頼は到底得られません。
まだ安倍総理の復活に期待を持つ方もいらっしゃるようですが、それは国民目線で判断していないからではないでしょうか。残念ながら傷ついたブランドはたとえオークションにかけても売れないのです。
安倍晋三の嘘まとめ - NAVER まとめ :
そして野党はこれまでは、たとえ、世論調査で野党の政党支持率があがらなくとも、内閣支持率が下がれば、選挙は野党に有利な結果になるとして、与党を攻めればいいという戦略をとっています。しかし、それは相手の敵失を狙い待つ戦略でしかなく、与党に投票したくないから野党にという消極的投票行動しか生みません。それでは国民が心から支持しているわけではないので、政治の主導権を握ることはできないのです。
与野党ともに、もっと自らのブランド価値に敏感であってもいいのではないでしょか。
話を戻しましょう。
トランプの外交目的が、国内世論の支持の最大化であり、当面の目標が9月の選挙で勝利することだとすれば、北朝鮮とどのあたりで合意するのかという基準が見えてきます。中途半端では、目的が達成しません。金正恩は米国主導の結論に異を唱えるだけの切り札を持っていません。目指すゴールに達していなければ、軍事オプションをつきつけ脅せばいいのですし、北朝鮮近辺で合同演習で圧力をかけたり、いやほんとうに軍事攻撃する選択もできます。
そして日本は、トランプ頼みではなく、自ら動き、北朝鮮に働きかけないと拉致問題を解決できないのではないかと思えます。もしトランプが拉致問題を解決してくれた場合に、なにを見返りにするのかを考えると結構恐ろしい感じがします。
いずれにしても、トランプ劇場は日本のためにあるのではないということです。日本は自らが動けるように、まずは、国民からの政治への信頼を取り戻し、国内を安定させて思い切った行動を起こすことです。それは与党の仕事です。野党を非難しても始まりません。
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