世界各国がEV(電気自動車)ポピュリズムとでも言うのでしょうか、遅れてはならじと、つぎつぎに、ガソリン車やディーゼル車を規制し、EVへ切り替える政策が発表されてきています。ドイツはディーゼル車の排ガス不正で次世代の自動車市場をリードする技術を失ったためにEVで再び技術優位を生みだそうという思惑、中国は、ガソリン車やディーゼル車では、とうていドイツや日本には追いつけないため、EVにシフトし、国内産業に競争力をもたせようという思惑などもからみ、なにかEVは国策合戦の様相を帯びてきました。

しかし、政策の後押しでEV普及が現実化すればするほど、それよりももっと本質的な議論が必要になってきます。果たして、どんどんEV普及が進んでいくとして、それで必要になってきる電力をどうするのかです。

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日経ビジネスが、フィナンシャル・タイムズのずいぶんセンセーションナルな記事を掲載していました。テスラ社が発表した、電気で走行する大型トレーラーは、充電に最大4000戸分の住宅が使うのと同量の電力が必要になるというのです。すさまじい消費電力です。

またロイターは、英国が2040年にガソリン車やディ−ゼル車の新規販売を禁止し、EV化しようとしていますが、そのための電力需要増を支える、新たな発電所、電力供給ネットワーク、そして充電スポットなどの整備を図る必要があり、それがEV普及のネックになってくる可能性を指摘しています。


またファイナンシャル・タイムズでも、英国がもしEVに切り替えていけば、2050年までに原発6ヶ所に相当する電力需要が増加する可能性があるとしています。

確かに、EVだけを見ればCO2を排出しないで走行します。しかし、EVが走行するためには動力が必要なことはいうまでもないことで、社会がEV化でエネルギー転換をはかろうとすれば、動力をつくりだす電気をどう生みだし、どうEVに供給するのかという全体像がどうなるのかの検討が必要になってきます。

たとえば、もし急激な電力需要増を火力発電所で補うとすれば、かえってCO2排出量が増えるかもしれず、原子力に頼るか、太陽光などの自然エネルギーの発電量を増やすことになるでしょうが、現実的かどうかです。

そんななかで日経に興味深い記事がでました。御園生誠・東京大学名誉教授が、自動車製造時のエネルギー消費を加味して試算してみると、電気自動車の方がエネルギー消費が大きく、CO2排出が増える可能性があるとわかったというのです。つまり「電気自動車の普及はCO2削減につながらない可能性が高い」というEVポピュリズムへの警鐘です。
「EVシフトでCO2は減らない」東大名誉教授が試算 :日経(有料会員限定記事) 


EV普及そのものへのハードルはまだまだ高いというのが現実です。いまのところ「全固体電池」の実用化に期待が寄せられていますが、まずはリチウムイオンの価格や容量、充電時間による限界を超える電池が登場しないといけません。

そして電力需要増にどう対処し、インフラをどう整備するののか、それでEVの普及がどんどん進んでいけば、ほんとに低炭素化が実現するのかの議論が充分でないままに、各国がそれぞれの思惑でEV化政策を発表しています。
しかしEVはエコカーだという神話が刷り込まれてしまうと、なかなかそれを払拭することは難しいというのも事実です。

電気自動車で先行しているテスラが、エコカーというよりは、異次元の加速性能が楽しめる車という価値を売っているというのも現実で、どうせ電力インフラの制約で普及に待ったがかかってくるとすれば、「エコカー」の呪縛から抜け出した尖った車を開発したほうが技術開発レースにはいい刺激になるのかもしれません。