ニーズが多様化し、市場が細分化されてくると、できるだけ付加価値の高いカテゴリーでポジション取りを目指すというのもマーケティングの王道のひとつです。しかし、それを実現するためには、開発の根っこの部分としてのコンセプトづくりから発想の転換が必要になってきます。ネットという「買い場」が広がったことも、エッジの立った製品を成り立つ背景になっています。「この指止まれ」型のマーケティングといえるのかもしれません。
その代表例のひとつが、「世界一、素材本来の味を引き出す鍋」としてメイドジャパンの高級鋳物ホーロー鍋で話題になったバーミキュラです。数万円と高額にもかかわらず人気の高い鍋です。今は簡単に手に入りますが、少し前までは予約して1年以上待たなければなりませんでした。
そして、物によっては2,000円程度でも買えるオーブントースターで、その10倍の価格、25,000円で登場したバルミューダのスチームオーブントースターも同じで、大ヒットししています。

「バーミキュラ」と「バルミューダ」。マーケティング・スタイルも名前も似ています。

いずれも、会社そのもの、開発の姿勢、そして製品にも物語があり、使う人たちの心にあたたかいサムシングを伝えてくれています。とくにバルミューダのトースターは、パリッと美味しく焼けるというだけでなく、焼きあがるまでの体験を膨らませてくれる仕掛けがあり、それが価値をさらに高めています。

「売りたいのはトースターではなく、美味しいトーストを食べるという体験」、「消費者はモノにカネを払うのではなく、体験にカネを払う」という発想です。それがネットで伝わり広がっていくことにつながってきます。

その両社が、家電のなかの激戦区の炊飯器にチャレンジしはじめました。日本は、炊飯器のレベルが高く、中国や韓国の人たちからも高い評価を受けていることは言うまでもないのですが、そこに体験価値、台所から食卓を豊かにするという「コトの価値」をどう実現するのかです。

鋳物ホーロー鍋の炊飯器「バーミキュラ ライスポット」は価格が79,800円。先行予約開始から約1カ月半で、受注数がはや15,000台を突破したそうです。BALMUDAのキッチン家電第3弾「BALMUDA The Gohan」は41,500円(税別)で2月下旬からの出荷です。

どちらにも保温機能がありませんが、それは、狙うライフスタイルを絞っていることの証でしょう。物語で競い合うこの2つの炊飯器ですが、規模を狙わず、ターゲットを絞ることで、尖った価値の実現を追求する開発やマーケティングが新鮮です。