大塚家具のお家騒動も、その後の「大感謝フェア」が話題となり、5月の売上が前年同月70%増、6月が49.6%増と大盛況でした。親子対決に世間の目が大塚家具に釘付けとなりましたが、さらに株主総会で久美子社長の勝利が決まった後も、間髪をいれずに「大感謝フェア」を開催した行動力、またその後の情報発信力も見事というしかありません。勝久会長は、素晴らしい後継者を得たことになります。
なにが「大感謝フェア」だ、「大謝罪」フェアであるべきだろうとお怒りの方もなかにはおられましたが、TVのニュースであれだけ取り上げられ、しかも詳しくセール内容まで伝えられるなど、見事に報道番組をジャックし、報道メディアを大塚家具の宣伝媒体化した大塚久美子社長のたくましさに恐れいりブログに残しました。
大西 宏のマーケティング・エッセンス : 大塚久美子社長のたくましさに脱帽

さらに、フェアにつづいて打ち出したのが、ロゴタイプのリ・デザインと新スローガン「幸せをレイアウトしよう。」であり、平祐奈さんを起用した新CMの展開でした。矢継ぎ早に手を繰り出し、大塚家具が変わったこと、新しい大塚家具に向けて一歩を踏み出したことをアピールしたのですが、こちらも、平さんのヘアスタイルが久美子社長を彷彿とさせ、また店員に平さんが「父がすみません」と謝るシーンがでてくるなど、まるでパロディのようでもあり、ネットで話題になっただけでなく、メディアも飛びつき実際に投入したCMの量よりもはるかに効果をあげたのです。普通は大塚家具ぐらいの規模の会社のロゴタイプ変更があれほど取り上げられることもありません。



大塚家具が父娘口論CM 久美子社長が平祐奈と共演 - 日刊スポーツ芸能ニュース -

新ロゴタイプは、以前のものが男性的で、硬い感じだったのを、モチーフは変えず、ラインを生かして、女性的でソフトにリ・デザインしたことで、かえって変化を印象づけるものに仕上がっていると思います。
新生・大塚家具を久美子社長がアピール ロゴなど一新で「リユース」強化へ |

ところで、大塚家具の久美子社長は、経営とはなにか、マーケティングとはなにかの見本を見せてくれているように感じます。ただ者ではありません。マスコミへの対応、またお客さまを迎える姿も、腰が低く、丁寧ですが、行動は思い切っています。

そしてもっとも経営者として、あるいはマーケターとして優れていると感じるのは、弱み、限界を抱えながらも、おそらくそれを自覚しながらも、そのなかでなんとか独自性を創りだそうとチャレンジの手を緩めないことです。

少子高齢化、人口減少などの環境変化、またIKEAやニトリの台頭など競合環境の変化のなかで、かつての大塚家具のビジネスでは衰弱死を待つだけだったと思います。その負の遺産を抱えながら、家具買取りなどのアイデアを盛り込み、大きくビジネスを変えようとし、大塚家具の店舗でしか体験できない新しい価値をつくりだそうという戦略の一貫性を感じます。

そういえば、ついこの間、文具の世界で、アマゾンやアスクルなどのネット通販が伸びてきたなかで、文房具の伊東屋が新しい店をオープンさせたことを『カンブリア宮殿』が特集していました。品揃えの数ではネット通販に敵うわけがなく、旧店舗が取り扱っていた商品が15万アイテムだったところを、4万点にしぼったそうです。
YouTube動画
日経スペシャル カンブリア宮殿

大塚家具と伊東屋に共通するのは、顧客に、感動する、あるいは共感する体験を通して、選んでよかったという満足を提供しようとしていることです。そのどちらも、ネット通販、あるいは今が主流のローコスト経営のビジネスではなかなか実現できない立ち位置をつくろうとしていることです。

大塚家具の久美子社長にも、伊東屋の伊藤明社長にも、ビジネス・モデルという視点だけでは捉えきれない、ビジネスの知恵と行動のパワーを感じます。そして、きっと大塚家具は普通でない新しいタイプのインテリアの会社になっていきそうな予感がしますが、その先にある姿も伊東屋とイメージが重なって見えてきます。

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