日本と北朝鮮が拉致問題再調査で合意したことは驚きでした。実際に日本側が納得できる結果になるのかどうかは微妙なのでしょうが、中国との関係によって生じた朝鮮半島のねじれ現象を象徴する動きであったと感じます。
中国と韓国が互いに擦り寄り、また反日での共闘が強まってきたのも、中国と北朝鮮の関係が悪化したこととは無関係ではないように思えます。北朝鮮は実質的には中国の植民地化の道をたどっていたのですが、核問題で中国の言うことを聞かない金正恩外しをはかった、その結果、中朝関係の要となりパイプを握っていた張成沢が処刑されたのでしょう。
張成沢の処刑は、習近平の金正恩外しの動きに対する北朝鮮からの逆襲で、言ってみれば金正恩による習近平体制へのクーデターだとすれば、それで決定的に中朝関係が壊れてしまったという背景が透けて見えてきます。
張成沢処刑は習近平の金正恩外しへの逆襲なのかも

 しかし、金正恩は政権の座を守ったものの、頼みの中朝の経済関係も停滞が起こり、かなり厳しい状況となってきているのでしょう。さらに「どちらか一方が他国に攻撃された場合、もう一方は自動的に他方を助けなければならない」とする中朝友好協力相互援助条約は東京オリンピックの翌年に更新時期がやってきますが、それを中国側は中味を変えようとする動きがあるといわれています。北朝鮮の切り捨てです。

そうなると北朝鮮にとっては、頼みは日本しかありません。戦後賠償金も欲しい、日本からのパチンコマネーも欲しい、中国に傾斜した韓国ではなく日本の企業にも来てもらい投資をして欲しい、関係を改善したいというのはわかりやすい動機です。

北朝鮮は瀬戸際外交でなにをしでかすかわからないという点を含め、動きはわかりやすく、あとはどれだけ困窮してきているのかで、出方が異なってくるということでしょうか。

不透明になってきたのは韓国の先行きのほうです。日本にとっては、韓国の経済や社会が安定し、日韓関係が安定していることが理想的です。韓国は日本の産業のコピーであり、経済的にはライバルですが、基礎的な技術が育っていないために、日韓関係がぎくしゃくしはじめた今でも、日本にとっては第三位の大きな輸出相手国です。

しかしこれまで破竹の勢いだった韓国もピークアウトに向かう3つの空洞化のリスクをかかえはじめているように感じます。

第一の空洞化は、製造業の海外流出による生じてくる空洞化です。ウォン高の流れが止まりません。サンケイが言うように、単純に日本企業に追い風になるとは限りませんが、ふたつの影響は確実にでてきます。

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6年ぶりのウォン高、韓国企業に打撃 1ドル=1000ウォン接近の危険水域、日本勢には追い風に (1/2ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

韓国は輸出依存度が異常に高い経済構造ですが、ウォン高は、韓国の輸出産業の業績を悪化させます。日本で、円安で好決算となった企業が多いのと真逆になってきます。それよりも影響が大きいと思われるのは、ウォン高の影響から逃れるために、製造拠点の海外移転による国内産業の空洞化が進んでくることです。

日本も円高で産業の空洞化が加速しましたが、日本との違いは、日本は国内に大きな消費市場があり、それが防波堤の役割を果たしてきました。しかし、韓国の国内市場は小さく、それが仇になってきます。
韓国経済の貿易依存度 3年連続で100%超

第二の空洞化は政治の空洞化です。セォール号の痛ましい事故、それに続くさまざまな事故は、朴槿恵大統領の直接の責任ではないにしても、もはやリーダーシップをふるう国民からの強い信任を得ることが難しくなってきています。
朴槿恵大統領の支持率も、朝日新聞の記事によれば、4月末で48%と、2週間前の調査より11ポイントも急落し、一方で不支持は40%と12ポイントも上昇したために、支持と不支持が拮抗する状態になってきています。
朴槿恵大統領の支持率急落 韓国船沈没でやまぬ批判:朝日新聞デジタル

韓国のマスコミも、これまでのように政府と歩調をあわせた反日一色の報道からは一変し、日本の危機管理を学べという主張も目立つようになってきました。
 セウォル号事故で、朴政権に向けられる怒りと韓国メディアの変化

 朴槿恵大統領の任期は5年ですが、2017年の大統領選挙を待たずに、はやレイムダック状態に陥ってしまい、政治が停滞してくる可能性がでてきています。

第三の空洞化は、韓国の経済の成長エンジンの空洞化です。韓国の中国への傾斜は経済関係の変化がその背景にあるのでしょう。韓国経済の成長は、中国との関係、また中国経済の動向にかかっているのです。

韓国の最大の貿易相手国は中国です。とくに韓国にとって重要となってくる輸出相手国で見ると、2013年で、中国が輸出額の26%を占め、第二位の米国11%、第三位のEU9%を合わせても、中国にはとどきません。日本への輸出額をあわせてやっと中国一国への輸出額となる状況です。ちなみに中国にとっても、韓国も昨年、初めて日本を抜いて中国最大の輸入国となりました。
韓国が初めて日本を抜き中国最大の輸入相手国に 13年--人民網日本語版--

今は電子機器と自動車の中国への輸出の伸びが、韓国経済のもっともパワフルな成長エンジンとなっていますが、とくに電子機器では日本との競合で打ち勝ってきた韓国に新たなライバルが登場してきています。液晶テレビでも、日本と韓国の間で、激しい主導権争いが起こっていますが、それに割って入るように登場してきたのが中国のベンチャー企業です。
4K解像度の49型テレビが6万5,000円の衝撃

スマートフォン市場でも、まだまだサムスンの牙城が揺らぐほどではありませんが、中国の華為、レノボ、小米(シャオミ)などの5社の台頭が始まっています。その競合の影響がもっともでてくるのはおそらく中国市場でしょう。
 2014年Q1世界スマホ市場、Samsung首位、上位10社に中国5社、5インチ以上急伸:ITpro

中国企業という新たなライバルが登場してきていること、また中国経済の減速は、韓国経済の成長エンジンのガス欠が起こってくる可能性が高いのです。こういった変化は、長期的なものなので、すぐさま韓国経済が根底から揺らぐというものではありませんが、成長エンジンを失うリスクを抱えていることは変わりません。

さらにもうひとつの韓国のリスクは、中国に擦り寄りすぎると、対米関係もギクシャクしてくる可能性がでてくることです。今は日本を口撃し、あるいは米国でのロビー活動や慰安婦問題で日本を悪者扱いすることで、中国への擦り寄りのカムフラージュを行なっていますが、構造的に見れば、いったいどのような立ち位置を取るのかが難しい状況になってきています。

靖国問題や慰安婦問題による日本叩きが破綻すると、仲がいいと中国に思われると困る相手が実は日本だけでなく、米国もだとわかってきます。もし、米国の韓国への不信感も生まれてくれば、米韓関係にもヒビが入りかねません。

日本からすれば、国際関係の安定こそが最大の国益になってくるので、こういった構造変化を日韓ともに賢く乗り切ってもらいたいと願うばかりです。