アップルは、次第に「普通の会社」になってきています。アップルはデジタルの世界に偉大な革命を持ち込んだ企業から、その革命を通して築き上げたブランド力や技術またプラットフォームなどの遺産で生きる巨大なニッチ企業になりつつあるようです。
ジョブズが亡くなってからはサプライズも消えてしまい、自ら切り開いたスマートフォンやタブレットPC市場も、その市場の成長を後追いをしてきた企業に取り込まれ、成長力で格差も目立ってきています。
「普通の会社」の顔を露骨に見せたのはiPhone5Cを発売したことでした。若い世代や途上国でのシェアを取りに行ったのでしょう。こういった戦略は、これまでの市場を生み出し、先頭を走るアップルでは考えられないことでした。市場に適応しようとした、つまり市場の現実にあわせようとしたのです。
アップルが市場に適応する戦略をとってはたしてうまくいくのかどうかについては、興味津々でしたが、どうも上手く行っていないようです。アップルにとって幸いな誤算は、まだアップルらしさが感じられるiPhone5Sが売れていることでしょう。

最近つくづく感じるのは、革命を生み、革命を普及させてきたアップルですが、今必要なのはアップルそのものの革命ではないかということです。

そんなさなかに、アップルが、バーバリーのアンジェラ・アーレンツCEOをアップルの上級副社長に起用するというニュースが飛び込んできました。なぜアパレル企業のバーバリーの経営者をIT企業アップルが起用するのかを疑問に感じた人もいらっしゃるでしょうが、アーレンツ女史は、バーバリー再建の立役者であり、バーバリーで先進的でラジカルなデジタル戦略を進めてきた人です。しかも『Forbes』誌が選出する「世界で最もパワフルな女性100」の常連で、バーバリーを革新的な企業として評価されるようにした立役者だと知れば、いかに大物女性経営者をアップルが起用したかがわかると思います。
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昨年、WIREDがバーバリーのデジタル革命の詳細を紹介する記事を掲載していました。アーレンツ女史の手腕に、思わず背筋がゾクッとするのを感じる記事として印象に残りました。

『Forbes』の行ったアーレンツ女史へのインタビューでバーバリーのCEOに就任した2006年当時の会社の状況についてご本人が語った言葉からすると、バーバリー社は決して順調ではなかったようです。
「わたしが就任した当時、誰もわたしたちに注目していませんでした。会社は順調とは言えませんでしたし、わたしたちが戦う相手は、巨大なコングロマリットでした。言ってみればわたしたちは勝ち目の見えない『負け組』だったわけです」

昨日のメルマガで製品やサービス、あるいは事業の「再定義」がいかに大切かを書かせてもらいましたが、着目したいのは、バーバリーのデジタル革命の成功の前に、アーレンツ女史は、バーバリーのビジネスの再定義をしていることです。「ラグジュアリー」を売るブランドとしては負け組のバーバリーの立て直しにあたって、アンジェラ・アーレンツCEOは21世紀の「ラグジュアリー」の再定義を行ったのです。
「始まりはコート屋だった」という事実を、アーレンツCEOは「バーバリーはそもそも、特別な人のための服ではなかった」と言い換える。そして、かつては軍服や制服としても広く採用されたブランドの歴史などをも振り返って、「誰もが着ることのできる素敵な服」、すなわち「デモクラティック・ラグジュアリー」と再定義したのだった。

さらにターゲットも他のラグジュアリー・ブランドとは変えます。
「ほかのラグジュアリーブランドは、1990年代以降生まれの世代をターゲットとして設定することはしていませんでした。ならば、そこを狙おうと考えたのです。」

いやはや舌を巻くほどの戦略家としての姿を感じさせます。その戦略のもとに、ショーをストリーミングでインターネットに流したり、そこに、なにが書き込まれるのかわからないSNSを使ったのです。

しかも、なにも手段としてのデジタル革命だったわけでもなく、デジタル戦略を進めるために、生産体制や決済の仕組み、また物流にいたる大手術を断行したそうです。
社員は「ブランド」に対して最も近くにいるカスタマーだという発想、発信するコンテンツは、まず社内において十分に理解され、愛されなくてはならないという信念、「社内コミュニケーションをデジタルテクノロジーを通じて一元化し、透明で、直接的で、インタラクティヴなものへとつくりかえることで、社員を一元的にブランドに結びつけた」(WIRED)ことなどは、ある意味日本的経営を感じさせますが、洋の東西にかかわらず大切な視点なのでしょう。

アーレンツ女史は、アップルに関して象徴的なことを語っています。
「わたしたちが手本とする企業があるとすれば、アップルです」とアーレンツは語っている。「素晴らしいデザインカンパニーで、ライフスタイルをつくりあげている。わたしはバーバリーを同じような企業だと考えています」

アーレンツ女史は、上級副社長として、小売り・オンライン販売の戦略や事業拡大を執行する最高責任者の立場になるようで、中国市場強化と噂のiWatch戦略を担当するのではないかというWIREDが書いていますが、それは手始めで、もしかするとティム・クックCEOはそれ以上を期待しているのかもしれません。
バーバリーCEOがアップルへ移籍:使命は中国と「iWatch」? ≪ WIRED.jp

ジョブズという世に稀に見る戦略家を失ったアップルで、ジョブズがやり残したアップルの戦略を塗り替えるビッグ・サプライズをアーレンツ女史に期待したいところです。


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