昨日のエントリーの続きというか結果です。

編集の妙味というのでしょうか、なにを強く印象づけるかで受け止める側の捉え方は違ってきます。それで見事に誘導する編集技術を、NHKクローズアップ現代の「密着レアアース調査船〜“脱中国”はできるのか〜」は見せてくれました。もしかすると、取材をさせた文科省傘下の海洋研究開発機構の意向で、そうせざるを得なかったのでしょうか。
圧巻は、ガラス研磨剤につかうレアアース「セリウム」のシーンでした。ガラスの研磨工場を取材し、研磨剤に使うセリウムの高騰と品薄で手に入らなくなり、そのためにいったん使用したセリウムを排水から回収し、再生利用していることを紹介します。そして、価格の高騰を印象づけるグラフを見せます、中国が輸出枠削減を発表した2010年7月がきっかけとなり、さらに尖閣での漁船衝突の9月以降から価格が高騰し始めたことを解説し、なんと価格が17倍になったことを示すものです。
その後に、ナレーションで今でも価格は3倍の高値と続くのですが、耳で効くよりも視覚のほうがインパクトがあるので、おそらく見ていた人たちは品薄と価格高騰がとんでもないレベルになってしまったと受け止めたと思います。

なにが巧妙なのかですが、価格が急騰したそのグラフの最後の日付は、なにゆえか2011年6月で終わっています。普通なら、この番組制作時点で得られる最新データまで含めて、グラフを見せるところをわざわざ最も高値のところでグラフを終えています。
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 タイムスリップのマジックを使ったのです。

あの研磨工場の取材がいつ行われたのか、あのレアアース・バブルの時期に撮ったものを使ったのではないかとすら疑いたくなります。

ちなみに、NHKがグラフで使ったデータは国内価格でしたが、参考までに財務省貿易統計によるセリウムの輸入価格の推移のグラフと比較して見れば、いかに印象が異なってくるかもわかります。ちなみに財務省データのキログラムあたりの価格推移の数値表示は有料なので表示できないことはご容赦ください。トレンドとして参考にしていただければと思います。NHKの使ったグラフ線の先は価格の暴落、つまりレアアース・バブルの崩壊の痕跡を見ることができます。
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財務省貿易統計:希土類金属、イットリウム又はスカンジウムの無機又は有機の化合物及びこれらの金属の混合物の無機又は有機の化合物:輸入CIF価格:統計情報サービス : 

しかもレンズや液晶ディスプレイ用のガラス板を研磨するためのセリウムに限れば、リンクにあるような代替技術も開発されています。それも紹介すれば、別に深海4000メートルから採取しなくとも別の解決方法もあるのだろうということになります。

もっと原点に戻れば、なぜ中国が世界の産出量の9割を占めているのかです。ひとつは、レアアースを取り出しやすい良質な土だということです。モンゴルのレアアースを含んだ土とそれはNHKも紹介していました。

しかし、もうひとつの、もっとも重要な理由は伝えません。圧倒的なコスト競争力です。80年代までは米国のマウンテンパス鉱山が世界最大の産出を行なっていたのですが、中国が90年代にはいって増産し、安値攻勢をかけたためにマウンテンパス鉱山は、02年に閉山に追い込まれたのです。
それもFACTAが詳しく伝えています。こちらは有料記事です。

レアアースとは異なりますが、日本でも石炭やその他の金属の鉱山が1970年代を境に多くが閉鎖に追い込まれました。それは鉱山の枯渇だけでなく、為替の変動で急激な円高となり輸入品とは競争できなくなったからです。それと同じ事です。

中国でしかレアアース資源はないと誤解している人が多いようですが、レアアースの資源そのものは世界中にあり、中国の埋蔵量は世界全体の30%程度にしか過ぎません。もちろん中国が埋蔵量のトップです、ロシアが22%、アメリカが15%、オーストラリアが6%程度の埋蔵量があるのです。

それで生産量の約97%を中国が占めているのは、先に触れたように増産し、安値攻勢をかけて、他の産出国の採算を取れなくしてしまった結果、中国が独占するようになったのです。

つまり、レアアース問題は資源問題というよりは、国家間の産業競争力の問題であり、価格破壊によって世界市場を独占した中国の強引な国家政策の問題なのです。

いざとなれば、レアアースの”脱中国”は莫大な費用をかけて海底4000メートルの深海から採取するという選択肢もあれば、閉山した海外の鉱山を再開させるという選択肢もあるということです。

しかしそれを伝えると、文部科学省のレアアース予算が取れるかどうかは怪しくなってきます。

研究者が深海までレアアースを求めて追いかけようとする、あくなき探究心は否定しません。深海に潜む神秘を解き明かしていくことは、宇宙探査と近いものを感じます。その研究結果がまた別の領域で生かされることもあるでしょう。しかし、それと産業とを同じ目線で、また混同して語ってはいけないのです。

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