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東京スカイツリーは、墨田区に観光客を呼び寄せる効果をもたらしました。開業初日は天候の悪化でエレベーターを止めるというアクシデントがあったものの、わずか5日間で来場者が100万人を超え、スカイツリータウン内の商業施設「東京ソラマチ」も人で賑わっているといいます。近隣のホテルも予約がいっぱいで盛況です。しかしそういった朗報の裏では、客の増加を期待していた地元商店街のお店は、客が増えるどころか逆に客が減ってしまった店もあり、さらに観光客が道路に捨てるゴミが増え、その清掃に手間が増えてしまったといいます。皮肉なことに観光客は地元商店街ではなく浅草に流れてしまう結果となってしまいました。このことは懸念されていたことでしたが、やはり現実となりました。地元の商店街は観光客を引き寄せることも、とらえることもできないようです。
それは商店街のそれぞれの店のビジネスが、観光客にあっていないことが原因なので、すぐに解決する問題でないように感じます。
墨田区の住人で、地元の振興にひとかたならず注力されていらっしゃる作家・ジャーナリストの莫邦富さんが、そのスカイツリー効果がもたらした明と暗についてダイヤモンド・オンラインに記事を載せていらっしゃいます。
莫邦富さんも、「やっぱり観光客をつかめなかったんだと思わずため息」と書かれているように、誰もがそうそう地元のお店に観光客が訪れるとは思わなかったのではないでしょうか。

なぜならビジネスのあり方がまったく異なるのです。地元の商店街は、これまでは閉ざされた狭い商圏に住むお客さんを相手に、日常を支える商品や飲食サービスを提供してきた、その関係で商売も成り立っています。近隣住民に「日常」を売ること、コモディティ化した商品やサービスを提供するビジネスです。閉ざされた商圏であるために、激しい競争もないなかで、地元の人たちとの慣れ親しんだ関係を維持しながら、商売を続けてこられたのでしょう。

つまりお店は、地元の近隣の人びとしか相手にしてこなかったわけです。たまたま押上商店街に訪れ買い物をした人が言っていました。信じられないほど愛想が悪く、売る気があるのかないのかよくらからない、それでよく商売できているなあと驚いたと。地元の住人にはそんな親切はよけいなことなのでしょう。

しかし観光客が求めているのは「非日常」です。その他の地域では手に入らないもの、味わえない料理などの「非日常」です。

そういった客層によって求めるものが違うことは、京都の古い商店街「錦市場」に行けば目の当たりにわかります。観光客目当てに、いかにも「京都らしさ」を売る店には観光客が殺到していますが、ほんとうに老舗のお店のほとんどは店構えも地味で観光客はほとんど寄りつきません。なぜなら「京都の日常」を売っているからです。利用するのは、地元の古くからのお客さんか、グルメ情報でその店が京都以外に住む人にとっては「非日常」であることを自ら発見した人ぐらいです。

「非日常」を売るためには、「日常」を売るビジネスとは異なるマーケティングが必要になってきます。いかにそれが「ここでしか買えない、味わえない」ものとしての特徴を伝えるメッセージ、イメージ、接客方法など感じてもらうことが必要になってきます。まずはコンテンツ化がありきで、コミュニケーションの技術も求められてきます。

地元商店街の客数が減ったのは、地元でもいつもとはちょっと違う「非日常」を体験したいというお客さんはいます。そんなときには、地元の商店街ではなく、「東京ソラマチ」に行ってしまうのでしょう。特に飲食は厳しいと思います。

遠く離れた地方では、「地元の日常」も観光客からすればそれは珍しいものになりえるのですが、墨田区、また押上では「日常」は「日常」でしかありません。莫邦富さんが、記事のなかで、たまたま乗ったタクシーの運転手さんが地元の方で、地元商店街が不振だという会話のなかで、「行政にもっと大ナタを振るようにやってもらいたかった。このまま行くと、スカイツリー開業という貴重なチャンスを逃してしまう」と嘆いていたことを紹介されていましたが、それで地元の商店街が活性化するとは到底思えません。

いくら行政が頑張っても、そのビジネスが顧客にマッチしていなければ活性化しません。おそらく行政が街の環境を整備すればするほど、外から小売り業や飲食業が入ってきて、お客さんは新たに入ってきたところが奪ってしまうでしょう。

まずは地元の商店街が、客層の変化に対応して、自らが変わっていかなければならないのです。自らが変わる意志や意欲を持たないとすれば、売上は細っていくかもしれないとしても、地元客相手のビジネスを続けることになります。
観光客にとってもっと魅力のある店づくりをしたければ、自らが変わる努力をするか、もっと効果的なのは、チャレンジ精神のある次世代に経営を譲るか、観光客ビジネスをしたい他の企業にお店に売却するかでしょう。

しかし、莫邦富さんの乗ったタクシーの運転手さんの言葉には、なにか日本が陥ってしまっているものを感じます。本当は自らが変わるしかない、あるいは努力するしか無い問題も、厳しい、苦しい、だから政府や行政頼みになるということです。政府や行政のできることなど知れているにもかかわらずです。不況が続き、経済界からも、お上頼み、政府の政策に対する要求が目立つようになってきたように感じますが、それよりは変化した時代にどう自らが適応するかを考えるほうが重要ではないかと。

自民党が社会保障で「自助」を強調していますが、それは産業活動についても同じで、公共事業や補助金に頼らない「自立」の精神をもっと訴えかければ説得力が増してくるのではないでしょうか。