社保庁問題について日経ビジネスで参考になる記事が3つ掲載されていました。
ひとつは、コールセンター・マネジメント研究所 代表 多田 正行氏による
片山さつき議員の「システムは数カ月でできる」発言に思う
もうひとつは、民主党藤末議員による
消えた年金記録の裏側で何が起こっていたのか
そして馬場完治記者の
社保庁改革、届かなかった警告 「犯人捜し」の政争で年金不安は解消しない
です。
それぞれ登録しないと全文を閲覧できないので申し訳ないですが、3つをあわせて読むとかなり社保庁問題について見えてきます。

まずは、多田氏の記事ですが、「朝までテレビ生テレビ」で、片山氏が「(新しい年金システムは)数カ月でできる」と発言したのを聞いて驚き、思わず目が覚めてしまったそうです。そういった官邸サイドの楽観的な読みが、安倍総理の照合システム完成前倒し宣言となっているのだと思います。
まさか、前倒しのシステム構築が無理な話だとしても、どうせ選挙さえ終わってしまえばといいという認識での宣言ではないもの、ほとんどITについては素人の官邸サイドが、システム構築は、現実にはそうそう思い描いたようにはいかないのが普通だという現場感覚もなく、耳障りのよい情報に飛びついて誇らしげに前倒し宣言をしてしまったという気がしてなりません。
社保庁のシステムの現状について、民主党藤末議員が「日経コンピュータのような内容になってすみません」という詳しい記事がありますが、要は、きわめて古い化石のようなシステムで、しかも、日立、富士通、NECのOSも違い、互換性のないシステムが違う場所にあるといったことに象徴されるように「全てがバラバラで複雑なシステム」だということですしかもそのバラバラのシステムを動かすために、屋上屋を重ねるように、とんでもない膨大で複雑なソフトがあるということです。
藤末議員は、柳沢厚労相に次のふたつの提案をされたようすが、突合に無駄な費用をかけるよりは、新しいシステム導入を前倒しするという提案は一理あるように思えます。
【1】社会保険庁の2、3世代前の古いコンピュータシステムでは5000万件の突合作業に対応できない。新しいシステムを平成23年から導入する予定であるが、その一部でも繰り上げて導入し、作業を行うべき。
【2】現在の社会保険庁ではコンピュータシステムを的確に運用できない。年間約1000億円のお金(皆様の年金から拠出)を使っているが、全てNTTデータや日立に丸投げしていて内部に知見がない。コンピュータをうまく使える省庁、たとえば国税庁の応援をお願いすべき。
国税庁の応援を得るかどうかは別として、社保庁にIT部門の運営ができるプロ(CIO)がいないことは問題で、いかに実際のシステム構築は外注しても、それを監督し、また精査、検収できる発注側の体制がなければ、突合のしステム構築にしても、新しいシステム構築にしても話にならないとこはいうまでもありません。

情報システム以上に社保庁の組織問題がありますが、馬場完治記者の「犯人捜し」の政争で年金不安は解消しないというのは正論で、自民党は自治労を犯人だとし、民主党は社保庁だとする議論ほど空しいものはありません。
自治労が無茶苦茶であることはいうまでもないとしても、社保庁だけでなく、監督省庁である厚生労働省も含め、組合と馴れ合い、その場のトラブルがなければよいという当事者意識欠如も酷いものです。民間企業は、さまざまな労働争議も経てきたのですが、経営側がそんな逃げ腰、無責任だと会社は潰れるのでしっかり組合と対話してきたわけで、社保庁の場合はどっちもどっちということです。

また、いきなり民営だとかいう器の話が先行していますが、問題は統治なき組織をどうするのかというのが本当の議論で先にあるべきです。
馬場完治記者は、「社会保険庁の在り方に関する有識者会議」のメンバーを務めた香川県坂出市の松浦稔明市長が、「宙に浮いた年金は社保庁労使の共犯のようなもの」として、「だからこそ、再発防止につながる内部統制、監査の仕組みを作り上げることが大事」とおっしゃっているそうですが、その通りだと思います。
またそういった内部統制や監査の仕組みだけでなく、停滞した組織を蘇らせる情熱と能力をもったリーダーを経営陣に送り込まないと、いくらカタチだけ民営化しても改革が推進されるわけがありません。情報システム構築とあわせて、人材を投入して、まずは将来像を描かせることからはじめてはどうなんでしょうか。急がば回れっていいますからね。

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