現代のビジネスでは、スケール メリットが単純には働くなってきています。大量に生産することにより、学習が積み重なり、コストが飛躍的に下がり、競争優位に立てる。このようなスケール・メリットは過去のものになってきています。
むしろ、大量生産によるスケールメリットを武器としていた産業は、肥大化し、時代の速い変化に、体制的にも、組織の持つ文化にしろ、ついていけないというケースのほうが多く、スケール デメリットのほうが、むしろ目立ってきました。
スケールより、むしろ企業が生き延びていくための絶対的な条件である環境適応能力が問われてくるようになってきました。

時代は、規模の経済から、スピードの経済に移ってきたと言われています。シリコンバレーの鉄則は、「クイック イズ セーフ(早くやることが安全)」です。
かつての、規模の経済の時代なら、先発で商品を出すよりは、先発商品の売れ行きを見て置いて、売れてくれば、自社の販売系列で、先発をしのぐ圧倒的な面の展開を行い、シェアを奪うということが成り立っていました。しかし、今日は、量販店やディスカウンターなど、流通が商品を選択し、また消費者の購買場所も一定化しない、店を見比べ買うようになると、そのようなスケールを生かした二番手商法は、そう簡単には通じなくなっきました。先発、先行商品が強い時代です。

かつてなら、アサヒビールのドライは、キリンにおいしい市場を奪われていたはずです。シャープの液晶も、ソニーに、あるいは松下電器に奪われていたはずです。しかし現実は違います。

マーケティングの世界の格言も変わりました。「よくねらって撃て」のライフル式からマシンガン方式の「撃て、ねらえ」に変化してきています。
では、何故、スピードが効くようになってきたのか。ひとつには、市場がきわめて分散化、専門化、高度化してきたことがあります。それによって、それぞれの市場が相対的に小さくなりました。小さい市場だから、あっというまに、先発がリーダーとなってしまう。場合によっては、それがデファクト スタンダード(事実上の標準)になってしまう。

売れ行きを見て参入しようとしても、その市場セグメントで見れば、圧倒的なシェアを持った巨人がすでにおり、市場でのイメージも、情報力も、販売ネットワークも押さえられてしまっており、時既に遅しということになる。

スピードの経済を生み出しているもうひとつの側面は、情報技術の発達です。ダイエーなどのGMSは、大型店舗による規模のメリットを追求してきたのに対して、コンビニエンスは、小さな店舗による「回転率」を追求したビジネスです。業績の格差はいうまでもありません。このことを可能にしたのは、POSシステムをはじめとした、情報技術にほかなりません。

 もうひとつの時代のキーとして、「範囲」の経済があります。これは、かつてとは比較にならないぐらい、事業と事業の間の相乗効果が効く時代になってきたということです。その背景には、情報がビジネスの鍵になってきた点です。モノと違って、情報は、何度でも利用できる。加工の自由度も高い。競争相手や既存の業者が知らない顧客情報を、ビジネスを通して得ることが出来れば、その情報をもとに、差別化した商品やサービスを提供することが出来ます。技術も高度化してくると、おのずと中途半端に手をだすと、結局は競争相手の技術に負けてしまいます。どこにも負けない自社のコア技術を核に、製品を広げていくことが重要になってきました。

 一般には、そのようなキーワードで語られるですが、もっと本質を考えると、現代は「密度」の経済といえる原理が働き始めてきているのではないかと思います。

 ひとつには「密度」が商品の「価値」を決め始めてきているということです。どれだけ複雑な技術が小さなチップに濃縮されているかで決まる世界が増えてきました。半導体の世界で言えば、技術の「密度」が高いCPUは、比較的単純な構造や技術であるメモリーよりも付加価値があります。アッセンブラーとしてのコンピュータ産業は、もはやメタ電子産業では、実質的には主役の座を奪われ、ソフトウェアやデバイス産業に依存する産業となっている。これも技術集積度の問題です。

 ハリウッド映画は、市場が世界に広がっていることもあって、ひとつの映画に投入している、資金や技術は群を抜いており、それが大きな価値となって、世界の映画界のリーダーシップを握っています。これも密度の問題かもしれません。
 スカンジナビアン航空の「逆さピラミッド」も、顧客と接するほんの一瞬が「真実の瞬間」であり、そこにどれだけ、顧客の満足を創り出すかという発想です。

 情報化やサービス化が進んでくると、重要なのは、コンテンツ(中身)の密度になってきます。
 「密度」の発想が、クロネコ大和の宅急便を生みました。路線便は、線の太さとどれだけの基地をつないでいるかという長さを競います。宅急便で重要なのは、顧客は、ひとつの荷物しか出さないし、受け取らない。そうすると、ひとつの地域にどれだけのお客さんがいるかで、効率が左右される。これも「密度」です。
 
 「範囲」の経済を深く考えてみると、それはひとつの顧客や市場にどれだけ、密着し、より深い情報を持っているかということになり、原理はやはり「密度」ではまいでしょうか。
 ビジネスの密度を考えることが、健全な生産性の向上をも生み出します。これからの時代は、一時間当たりにどれだけの生産性をあげるのかという時代になってきます。働く「密度」が問われる時代です。体力勝負だけでは、あるいは精神論の勝負だけでは、「密度」は実現できません。
 
挨拶と値段の営業では、「密度」のある顧客とのリレーションも作り出せません。「密度」の高いリレーションシップがあってこそ、本当にビジネスに役立つ情報が得られます。

「密度」という尺度で、ビジネスと社内を眺め返してみてはどうでしょうか