マーケティングという言葉で感じるイメージは、人によってかなり違うものだと思います。ただなんとなく、体力や愛嬌で商品とかサービスを売るのではなく、どちらかというと頭脳プレイで売ることかなと思い描いている人が多いと思います。「頭脳プレイ」という点はその通りですが、なにか冷たく、ずる賢いイメージがしますね。ハートが伝わってきません。
商品を売るための広告や販売促進を企画し運営することだと考えている人もいるでしょうし、お客さまや生活者、また市場の調査をすることだと考えててい る人もいるでしょう。それもマーケティング活動の一部であることは間違いありませんが、キャッチボールを野球だというに等しいですね。

まあ、いずれもあたらずとも遠からずで、マーケティングそのものを語ってはいませんし、マーケティングの面白さが伝わってきません。

マーケティングとはなにか。これまでに、いろいろ定義されてきました。しかし、定義にこだわってもしかたありません。マーケティングは、その会社がどんな市場で活動しているかによって、また時代の変化に応じてスタイルが変わってきます。しかし、どんなに異なったマーケティングの流儀があったり、新しい手法が生まれてきたとしても、「より多くのお客さまに、より長く、より深く、商品やサービスを通して関係を築いていくための活動」という本質は変わらないと思います。そのための舞台をつくったり、実際に商品やサービスを市場にリリースしていく、ずいぶん広い範囲の仕事です。

お客さま、生活者のひとびとに、どんな価値を提供すればいいのか、どうやって 提供すればよいのか、どうやってお知らせし、どうすれば、市場でひしめく他の商品やサービスではなく、わが社の商品やサービスをわざわざ選んで買っていただけるのか。さらに、どうすれば、また次もわが社の製品やサービスを選んでい ただけるのかを考え、さまざまな活動を組み立てていくわけです。

さまざまな活動を組み立てていくという点では、建築の世界に近いのかもしれません。建築家の考え方やイメージがあり、それが設計図になり、その設計図をもとに、実際に建物が建てられていきます。マーケティングも、計画があり、その計画にそって事業が展開されていきます。建築も、全体の構造がきめられるだけでなく、さらに細部にわたって設計されていきます。どんな素材を使えばよいか、どのように施工すればよいかなど現場の知識がなければイメージ通りの建物はできません。マーケティングも同じです。計画をつくれば終わりでありません。商品のデザインにしろ、広告にしろ、販売資料をつくるにしても、細部での工夫が求められてきます。工夫のないーケティングには、共感や感動を生み出すパワーがわいてきません。

どのようにマーケティングを組み立てるのかという全体像を頭に置きながら、細部にわたってこだわっていく・・・そんな現場のイメージがあるので、最近、自己紹介する際に、私は「マーケティングの棟梁」だといっています。マーケティングは技の世界の一つなのかもしれません。

マーケティングが関わる範囲はかなり広いものです。研究開発、商品企画、デザイン、広告、販売促進、営業、生産、物流といったさまざまな活動と関わり、全体を束ねていきます。人や組織の癖、市場の癖を読みとって、イメージしている商品やサービスが生み出せるように仕掛けていくわけです。

マーケティングは、まさに事業の総合プロデュースの活動です。とくにお客さまのニーズやウォンツが高度化し、高いレベルの商品やサービスが求められるにしたがって、このプロデュースする力量がますます問われるようになってきました。