さて、昨日書いたように、いざ新規事業を立ち上げたり、新製品を出したとたんに、後発の会社も同じことを始めたらどうなるでしょうか。いきなり激しい競争がはじまります。価格がくずれたり、価格がくずれなくとも、販売競争で大きな出費をよぎなくされます。
下手をすると、市場を分け合って、投資した開発費や広告費などの販売費の回収も厳しくなってきます。新製品や新規事業でなくとも、現在の商品や事業に、新しい競争相手が登場し、競争が激しくなる危険性はつねにあります。最悪の場合、一挙に、市場や顧客を奪われかねません。

したがって、他の会社が、類似した事業をはじめたり、類似した商品をだすこと、また現在の市場や顧客との取引関係に参加することを躊躇させたり、なんらかのハードルをつくることが重要になってきます。それが『参入障壁』です。

では、どんなハードルがあるしょうか。まずは法的な規制です。「特許」が典型的です。その他にも、なんらかの許認可などの規制で守られるというのもあります。さらに「力ずく」ともいえるハードルもあります。いまさら投資して参入しても採算がとれないとか、圧倒的なブランド力で市場を押さえているとか、販売網を囲い込んでいる、極めてシェアの高い製品と関連させた仕様で商品化していくといったハードルです。「特許」は別にして、こういった大きな会社や事業にしかつくりだせない『参入障壁』の話は、いくらでも書いてある本がありますので、そちらに譲りましょう。

それより、小さな会社や小さな事業でもつくりだせる『参入障壁』のヒントはないものでしょうか。いくつかを考えてみました。

まずは『京都の老舗の料亭モデル』です。原料を押さえるという方法です。京都の老舗の料亭は、農家と契約して、特別に品質の高い野菜をつくってもらっています。他の店がほしいと思っても、同じ野菜は入手できません。
飲食や食品業界などでは、このモデルで『参入障壁』をつくっているケースが多いですね。原材料メーカーさんや生産農家などとの共同開発で独占権をおさえてしまうという方法はよくあります。原材料の生産者の人と、そういった関係をつくるためには、人間的な『信頼関係』、しかも長期的な『裸のつきあい』がなにより重要になってきますから、担当者が変われば、なにもかも変わってしまう大企業よりは、小さな会社のほうが有利かも知れません。
知り合いで、いろいろお世話になっているスーパーの社長さんは、「良い食品を毎日の食卓に届ける」という理念を貫いていらっしゃって、社長自らが、多くの産地の人たちとの共同開発を進めていらっさいます。普通のバイヤーではできないことかもしれません。

次は、『ラーメン屋さんモデル』です。ラーメン屋さんは、スープの作り方を、従業員にも秘密にしているところが多いですね。材料の配合や製法をブラックボックス化するという方法です。ブラックボックス化というのは、どうやって造るのかを人に教えたり見せたりしないことをいいます。今、デジタル家電メーカーが、韓国や中国に技術が移転していかないように、工場のブラックボックス化を始めました。言ってみれば、ハイテク分野のラーメン屋さんモデルです。コカ・コーラも最初はそうやって成長してきました。レシピは、トップが金庫の中にしまいこんで誰も見ることができませんでした。

『スピード・モデル』もあります。小さな会社が得意とするところです。開発の速度や納期、またサービス対応の早さで圧倒するという方法です。お客さまにとって、そんなスピードが基準になってしまえば、いちいち稟議書を回さないといけない大企業は参入できません。台湾の部品メーカーが、この方法で成功した典型例です。

『強みを弱みに変える』モデルもあります。想定される競争相手の「強み」を逆に利用して隙をつくということです。たとえば、競争相手が店頭販売で圧倒的に強ければ、通信販売など、競争相手が、現在の取引先に遠慮して手を出しずらいところを攻めるという方法です。競争相手が、通信販売を始めても中途半端になる可能性が高いですね。

『小さな池の大きな鯉』モデルもあります。あえて、大企業が参入したくなるような大きな市場を狙わず、特殊な小さな分野に資源を集中して、高いシェアをとってしまう方法です。靴下だけで、圧倒的な品揃えをつくって成功した会社もあります。この方法で成功している部品メーカーさんや専門小売店は案外たくさんあります。

きわめつけは、やはり『顧客満足』モデルです。ちいさな会社や事業は、それこそOne to One のマーケティングやサービスができます。お客さまひとりひとりの満足を追求するということです。それでお客さまとのつきあいが長期間継続すれば、お客さま側に、マーケティングでいう「スイッチング・コスト」が発生します。つまり、別の会社に切り替えると、なんらかの不都合が生まれたり失敗する危険性や心配がでてきます。よほどのことがなければ、取引を切り替える動機が生まれてこないということです。とはいえ、これが一番基本であるとともに一番難しいことかもしれません。


いずれにしても、小さな会社や小さな事業がつくれる『参入障壁』は、戦略や知恵、リーダーの理念や情熱、またチームのモチベーションの高さ、深い信頼に基づいた人のネットワークによるところが多いと思います。まだまだ、こんな『参入障壁』もあるよというヒントがあればぜひ教えてください。

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