JR西日本の経営はうまくいっていたはずでした。実際、鉄道事業以外にも積極的なチャレンジを行い、経営成果もでてきていた矢先の事故でした。しかし、だからといって経営者に安全を軽視する意識があったかというとそれも信じがたい話です。
実際、TVで昨年の新入社員に向けてのスピーチだと思うのですが、垣内社長が「安全・正確な輸送を前提として、さらにチャレンジする気持ち」といった内容のお話をされている光景が報道されていました。安全を最初におっしゃっています。
実際、JR西日本のホームページで会社の理念が掲げられていますが、そのなかの行動規範ともいうべきハート&アクションでも、トップに掲げられているのが「.安全・正確な輸送の提供」です。さらに、年次報告書でも、2005年3月期の主な取り組みのなかで「鉄道事業においては、まず、事業の根幹である安全・安定輸送の確保に全力をあげて取り組んでいきます」とされ、しかも「安全・安定輸送の確立に向けた取り組みの強化」が施策のトップに掲げられています。つまり、JR西日本の経営者を擁護するつもりは全くありませんが、そこから見えてくるのは儲けのためには安全をも犠牲にする経営姿勢ではありません。経営者を悪大名、悪代官と見立てた単純なとらえ方は間違っているのじゃないかと思います。まさか、こういった経営方針がたんなる作文でしかないというわけがありません。
しかし、どうも今回の一連の事故報道は、まるでそういった大名・代官さらに一族郎党の悪事をあばく正義の見方を演じることに酔ったものが多すぎます。マスコミが、どんどん暴走をはじめ、際限なく遠山の金さん、水戸黄門的正義の追求を繰り広げはじめてきました。
今回、数多くのブログがこういったマスコミのあり方を牽制してきていますが、このあたりは、現役若手記者によるメディアリテラシー入門「メディア探求」のなかの一連のエントリーが参考になります。
メディアリンチ撃退法
このままじゃマスゴミは本当に断頭台行きだよ
天声人語、斬られる

問題は、JR西日本は、安全な輸送を軽視したことではなく、安全輸送を実現する適切なオペレーションができなかった、株主への約束に掲げながら守れなかったということです。経営者と経営スタッフの力不足、経営判断のミスで、設備や組織の能力や問題点が見抜けず、それを補う投資や業務改善がおろそかになったということでしょう。JR西日本も社外取締役制度がありますが、それも機能していなかったことです。
しかし、考えても見れば、そもそもは親方日の丸の国鉄として、世界一安全ではあるが、まったく非効率だという組織から、自力で一挙に効率的な組織への変革にチャレンジしたわけで、危ういバランスでやってきたものの実際にはそれに見合う組織や業務の品質がつくれなかった、だから変化にも、目指していた経営成果をだすにも適応できる体質でなかったいうことにつきると思います。

組織は残念ながら失敗しながら学ぶものです。しかしJR西日本にも、失敗を学ぶ大きな機会がなかったわけではありません。それが信楽鉄道との衝突事故でした。あの事故を反省材料に安全対策にむけた意識改革や業務改善などに取り組んでいれば、それなりの成果をえることもできたのではないかと思いますが、当時の井出社長がJRに責任はないと突っぱね、教訓として生かせなかったことが仇になったとしか思えません。
失敗を学ばないというのが官僚の最大の特徴であり、国鉄エリート官僚らしい経営判断だったのかもしれませんが、そういった意味で現在の記者会見にでている垣内社長や経営幹部だけを責めるよりは、井出相談役こそ非難されるべきであり、ご遺族や被害者の皆さまにお詫びすべき筆頭の方ではないのかという見方ができます。

井出相談役は、三洋電機の社外取締役就任が予定されていましたが、さすがに辞退されました。井出元会長も、垣内社長もキャリア組として、若いころからいきなり組織の上に立って、国鉄、またJRを動かしてこられたのでしょう。
しかし、そこに落とし穴はなかったのかといいたいのです。そういったエリートに本当の現場がわかるとは思えません。現場の癖や現場の人びとの気持ちもわかるはずがありません。また現場との生きたネットワークもなかったでしょう。安全を守るというのは、きわめて現場オペレーションに関わるテーマであり、現場の意識やオペレーションやがわからないと実現できるものではありません。
中内さんや堤さんは現場にいって指揮をとるのが好きでしたが、それは脚色された現場、しつらえられた現場であり、ほんとうの現場ではありません。JR西日本の経営者のかたがたも同じだったのではないでしょうか。所詮は雲の上の裸の王様でしかなかったということです。官僚エリートの脆さ、限界なのかもしれません。
普通の会社を目ざしたものの、トップも組織も官僚的限界から脱皮できず、トップとしての目に見えない能力が不足していたということでしょう。机上で計画をたて、その計画に沿って、組織を手段として正しく動くように片道切符の指示命令で動かすという官僚組織型経営をやってきたのではなかったかと想像します。
きっと、それが官僚組織の正しい動かし方なのかもしれません。しかし、そういった組織は、経営を支え、実際の行動を組み立てるミドルの人材も現場の知恵も育たず、かならず腐敗していきます。
JR西日本は、官僚ではなく、普通の会社で育ってきた外部の血をいれることも視野に入れた根本的な体質改善をはかっていくべきはないか、そうでなければ、ふたつの大きな事故が教訓とならないように感じてなりません。

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