今日はお酒の話です。すでに先行的なお店では焼酎ブームのピークが過ぎ、日本酒が復活してきたそうです。とくに若い女性が日本酒を好んで飲み始めてきているといいます。確かに厳選された日本酒を飲ませてくれる店では女性の姿が目立つようになってきました。
男性、特に中年男性の場合、雑誌情報などから得た知識で選ぶ人が多く、女性は自分自身の味覚や好みで選ぶ人が多いそうです。だから男性は、どうしても今は話題が多い焼酎に偏ります。お酒の世界まで、消費最前線は女性が握るようになってしまいました。さて、日本酒は世界に誇ることの出来る高度な日本の文化のひとつです。その文化を楽しむ若い人たちが増えてきたことはいいことだと思いますが、その日本酒の文化を作り手として継承し伝えてくれているのが杜氏さんです。


魂の酒
杜氏という仕事はご存知だと思いますが、酒をつくる職人というだけでなく、蔵で働く人びとを束ね動かす指揮者であり、気温や湿度、また生き物の麹が変化する状況の中で、どのように舵を切っていくかを決める船長ともいえる存在です。

その杜氏さんの世界で有名な方がいらっしゃいます。農口尚彦さんです。石川県に、『菊姫』や『常きげん』という銘柄があります。日本酒の通なら知らない人はいません。農口さんは、28才で『菊姫』の杜氏になり、65才の停年まで、数々の銘酒を生んでこられました。全国清酒鑑評会において連続12回、通算24回の金賞受賞という実績が示すように他の追随を許さない酒造りの名人です。無形文化財といっていいでしょう。


その農口杜氏に昨日お会いすることができました。一昨日、以前にご紹介した江坂の『昌佳』に寄ったときに、オーナーの虎口さんが『常きげん』さんに行くという話を聞きつけ、あつかましく便乗させていただいたのです。農口杜氏は『菊姫』退職後、『常きげん』の鹿野社長に請われて現在は『常きげん』の鹿野酒造の杜氏をやっていらっしゃいます。いろいろ利き酒をさせていただきながら、鹿野社長と杜氏の農口さんのお話を楽しく伺う機会を得ることができました。
農口杜氏は、昭和7年生まれで、70才を超えていらっしゃいますが、まったくお歳を感じません。今なお、山廃酒を中心に新しい特徴のあるお酒づくりにチャレンジされている姿はオーラみたいなエネルギーが伝わってきます。何かを究めようとする眼光に思わずひきつけられてしまいそうになる方です。
お話を伺っていて、現代のビジネスにも通じることが多いのです。塩野米松氏が取材しまとめた『魂の酒』のなかに頷かされる話がいくつもでてきます。
とくに「失敗してはいけないけれど、失敗しないと学べない」ということはどの仕事にも通じることだと思います。「失敗して、原因をいろいろ考えるけれど、それでも分からないことが多いですけれど」と笑っておっしゃっていました。
今は、女性も含め、若い人たちが農口杜氏から学ぼうと蔵で働いていらっしゃいます。日本の文化が若い人たちによって継承されようとしている姿を見て心強い思いがしました。
お酒のような自然という複雑系を扱う文化があってこそ、ハードにしろソフトにしろ、ハイテクにしろ、ひと味違う日本の技術が生まれてくるのだと思います。

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