焼酎がブームになっています。いやバブルかもしれません。焼酎が日本酒の出荷量を抜き、以前なら、焼酎を揃えている気の利いた居酒屋さんなら気軽に飲めた「幻」の銘柄が、いまやプレミアム価格がついて、なかなか手にはいりません。さて、この焼酎ブームですが、マーケティングの視点で眺めると、なにを読み取ることができるでしょうか。
ブームを支える背景
まずは、ブームを支える背景を考えてみましょう。焼酎に限らず、「きれいで、さっぱりした飲み心地」がお酒の長年のトレンドです。この流れの中で、ドライビールのブームがあり、また吟醸酒ブームが起こり、今は焼酎です。「飽食の時代」の必然的な特徴でしょう。
さらに、地酒、特に吟醸酒と比べて、焼酎の利点は、ロックでも、水割りでも、お湯割りでも、その人の好みやその日の体調や気分、また料理で選べることです。焼酎ブームを支えている中心層は中高年の人たちですが、ブームの火をつけたかどうか別にして、地酒ブームを支えてきた人たちです。オジサンたちは、体力の限界を感じ始めているので、アルコール度数の高いお酒を敬遠するようになってきています。「薄めても飲み応えがある」ということもあって人気が高まってきました。
さらに、自然で安全な食品へのニーズが、「農産品」の色彩の濃い本格焼酎へのウォンツを高め、また広げてきています。地酒ブームと同じです。
こういった点を考えると、焼酎ブームは自然な時代の流れというように思います。しかし、それだけでは、ブームが巻き起こってきた理由にはなりません。

「情報」の消費
地酒ブームでもそうでしたが、焼酎も、実際の「味」で銘柄を選べる人は非常に少ないですね。「幻」の銘柄とひけをとらないおいしい焼酎はいくらでもあります。「美味しい焼酎だから美味しい」のではなく、「美味しいといわれている銘柄の焼酎だから美味しい」のです。それがブランドの価値です。ブランドは、他の銘柄より、プレミアムの価格がつきます。
「美味しい」、それだけでは話題になりません。銘柄を肴にして話が弾みません。下手をすると「あんたは美味しいかもしれないが、私はそうは思わない」ともめかねません。ブランドは、コミュニケーションの価値をも広げてくれます。
しかし、「情報価値」で支えられているということは危うさもあります。すべてのブームには終わりがあります。バブルも必ずはじけます。特に、自然発生的なブームはコントロールすることが難しいですね。

ロジャースのモデルで考えると黄色信号
ロジャースは農村社会学者ですが、新しい製品や新しい習慣は、普及していくプロセスが採用する人たちの特徴と関係があるというモデルを提唱しました。初期段階は、一握りの「革新者」が採用し、次に13.%前後の「初期採用者」へと広がっていきます。さらに、もっとも人数の多いフォロワー(初期追随者と後期追随者)へと広がっていった時に市場が本格化します。よく、普及率が10%を超えると本格的なマーケットになるといわれているのは、何かが普及していく際の特徴があるからです。
この視点でいうと、焼酎ブームは、すでに「後期追随者」まで広がってきているように感じます。情報は、みんなが知らないから価値があるという側面を持っています。知れ渡ってしまうと、うんちくを語れば語るほど野暮になります。情報価値は急激に失われていきます。

なぜ火がついたか
「情報の非対称性」という視点があります。簡単に言うと「情報ギャップ」の悪戯です。たとえ、どんないい商品をつくっても、そのよさがお客さまに伝われなければ、どんどん安い商品が売れていき、悪貨が良貨を駆逐するような状態になります。「こんないい商品なのになぜ売れないのか」という悩みになります。通信販売は、その情報ギャップを埋める情報を提供するから、ふつうでは売れなかった商品が売れるのです。
焼酎は、その逆のケースです。もともと本格焼酎は美味しかったのです。泡盛もそうですね。しかし、特に芋焼酎がそうですが、「焼酎は臭い」ということで大都市圏では敬遠されていました。ところがロックや水割りにすると、その「臭さ」はほとんど感じません。
「美味しいことが発見」されると、情報化社会の今日は伝わるのが早い。あっという間です。砂漠に水が吸い込んでいくようなものです。先に知った人は「通」だと評価され、さらに情報価値が高まっていきます。これでかなり、ブームの説明がつきます。

残念なこと
焼酎ブームは、地場産業を活性化させました。また、日本には豊かな「酒」の文化があることを示してくれました。しかし、焼酎バブルの中で、心ない蔵元に奢りが生まれている、天狗になっているというお店からの不満が生まれてきています。また、心ない卸店や小売店が、プレミアム価格をさらにつり上げ、バブルを煽っていると聞きます。
さらに、親しいお店で聞いた話ですが、焼酎がブームになって、油を揚げたりした高カロリーの料理がよくでるようになったそうです。また、日本酒を好むお客さんは、低カロリーの淡泊な料理を召し上がる傾向にあるそうです。こういう点も、案外落とし穴になりかねません。
バブルは必ずはじけます。また、蔵元が、素朴で、正直で、かたくなに伝統の品質を守っているという信頼が、このブームをささえていることだけは忘れてほしくないですね。

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