今年はTESLAが輝かしいスタートを切るはずでした。そんな期待感もありました。昨年、EV市場をさらに飛躍させ新たな歴史のページを開く役割を担う切り札とも言えるテスラ3をデビューさせたのですから。発表3週間で40万台を予約受注してしまうほど高い人気に市場も湧いていました。

テスラはこれまで、電気自動車を「環境」で売るというよりは、富裕層に向けて、図体は大きい割に高い加速性能が楽しめ、自動運転も含め、未来感あふれる夢をふくらませる車を売ることで成功し、電気自動車がビジネスとして成り立つ歴史を拓いてきました。また、ディーラーを通さず、コンピュータのように修正プログラムを配信し、問題を改善する仕組みは、自動車産業の近い将来の姿を示してきました。

しかし、しょせん高級車のニッチな領域からでなかったのです。

テスラ3は、その限界を超え、一気にボリューム市場へ領域を広げ、EVの普及にさらに拍車をかける期待の戦略車でした。

しかし思わぬ落し穴が待ち構えていたのです。その戦略を支える「量産」の体制づくりへの壁です。

当初は1週間あたりの生産目標を5千台とし、「17年末」には体制が整うとしていたのですが、さらに「18年3月末」に、さらに「18年6月末」へと引き伸ばされてきています。その煽りを食って、モデル3に車載電池を供給しているパナソニックは900億円の売上を失っています。

ただテスラのイーロン・マスクCEOは生産問題でも2020年に年間100万台生産できるようになると強気を崩していません。生産でもテスラがイノベーションを実現すると意気軒昂です。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、いまの自動車メーカーは、製造に強いというものの、製造ラインのスピードは遅く、最速でも25秒に1台のペースでしか出荷できず、「つえをついたおばあちゃんが最も高速な生産ラインを追い越せる」とマスクCEOは自信を見せているようです。

テスラ3は、実際にテスラが生産でも既存メーカーよりも効率化な量産体制が築けるのかがテスラにとっては重要な課題だということを示していますが、テスラが目指す2020年、年間100万台という目標も、VWやトヨタなどの巨人の年間1000万台の供給能力とは差がある現実を物語っています。

各国がEVに前のめりの政策を打ち出していますが、そういった政治の後押しがあったとしても、バッテリーの性能や価格、充電インフラの普及、充電速度、そもそもEVがガソリンに取って代わる電気を供給するインフラ体制など、EVが抱える困難な課題は少なくなく、EVが主役になる時代への模索の時代はまだまだ続きそうに感じます。