中距離弾道ミサイル「火星12」が発射された9月以降、北朝鮮が核・ミサイルに関しては沈黙を続けています。トランプ大統領のアジア訪問と、大規模な軍事訓練で緊張が高まるなか、移動式ミサイルの移動の気配が伝えられ、ミサイル発射実験が近いのではないかとの憶測も流れていましたが、実際に起こったのは板門店での兵士亡命事件でした。北朝鮮側から兵士を銃撃したものの、国境での交戦もないままです。

なにかを起こす前の沈黙であれば不気味ですが、逆に経済、軍事包囲網を敷かれ、核・ミサイル実験による挑発を行えば米軍の軍事攻撃に対する口実を与え、それが金正恩体制の崩壊にもつながりかねないために自重したのでしょうか。北朝鮮は、ミサイルを持つものの実質的には、地上部隊しかないに等しく、もし米軍との軍事衝突が起こればその結果は明らかです。

度重なる核・ミサイルは、逆にトランプ大統領がアジアの安全保障に注力しはじめ、制裁を強めたばかりか、揺らいでいた安倍内閣を復活させてしまい、日米を核に韓国、ロシア、中国を制裁に参加させてしまったことで挑発を続けることは、金正恩体制崩壊につながりかねないという恐れを感じたからでしょうか。

北朝鮮も自らの安全を保障するためには米国との対話が必要ですが、対話は核放棄が前提となってきます。しかし、あっさりそれを認めれば、国内での威信はなくなります。

先月の「火星12」の発射で、金正恩が、核戦力の完成について「今はその終着点にほぼ達した」とし、さらに党機関紙で、「われわれの国家核戦力建設は、既に最終完成のための目標達成が全て遂げられた段階にある」とはじめて公式に言及したことから考えると、本当にそうかは別問題として、核とICBMの完成を前提とした外交路線に転換し、新たなステージに踏みだそうということなのかもしれません。

つまり、もう核は持った、いつでもアメリカを攻撃できる、だから核保有国として認めてもらうという戦略です。核・ミサイル実験を停止して、まずはロシアや中国との対話を糸口にして、制裁緩和を狙うという外交路線です。ロシアや中国による経済制裁が緩和されれば、「並進路線」の核武装のもう一方である経済の立て直しにも集中できます。

板門店での兵士亡命でも、北朝鮮がなんら軍事衝突を起こさなかったのも、そういった流れの始まりかもしれません。しかし、それはアジアがもっとも警戒すべきことのように感じます。北朝鮮の核保有が国際的に認められれば、制裁にも穴が開き、外貨稼ぎの目玉として、北の核とミサイルが世界に拡散されていく可能性が高いと思うからです。また人を人とも思わず、残虐に粛清を繰り返す金正恩体制と、アジア地域での緊張や脅威が固定化されてしまいます。

しかし、もしかすると今回の兵士の亡命は、経済制裁の効果で、軍部が困窮してきた兆候の始まりかもしれません、あちらこちらで金正恩体制の崩壊の憶測が流れていますが、民間は市場経済が定着し、それなりに生計を立てることができても、軍部に回る資金が枯渇してくると、飢えに苦しむ兵士から造反が起こっても不思議ではありません。おそらく、食料備蓄が不足しているといわれる今年の冬が越せるかどうかに命運がかかっており、場合によっては、北朝鮮内部でなにかが起こりそうです。


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