北朝鮮制裁問題では、斬首作戦もありえるという強硬姿勢、原子力空母を3隻を北朝鮮近海に結集させるなどの情報戦も交え、また韓国との軍事合同演習などを行って圧力をかけ、さらに一線を超えれば攻撃もありえるとラッパを吹いたものの、それをあざ笑うかのように金正恩政権は相次いでミサイル発射実験を繰り返しました。金正恩は、トランプ大統領は実際にはなにもできないと見切ったのでしょう。ただ、北朝鮮が、核実験を行うリスクを取らず、硬直状態を持続させればこのチキンゲームはトランプ大統領にとっては不名誉な敗北という印象が深まってきます。

とはいえ、米国国内で、北朝鮮からの脅威を実感できないうちは、北朝鮮制裁がういまくいってなくとも、それなりの体裁をと整えることは可能です。しかし、事態が一変しようとしています。北朝鮮で不法逮捕された大学生のオットー・ワームビアさんが、ただポスターを盗んだというだけで、逮捕監禁され、15年の労働教化刑を言い渡されただけでなく、1年半後に意識不明で帰国したことは米国に衝撃が走ったものと思います。

どう考えても、ワームビアさんがボツリヌス中毒になり、睡眠薬を投与された後、一度も意識が戻らなくなったという北朝鮮当局の説明は不自然です。
CNN.co.jp : 北朝鮮が解放した米国人学生、脳に重度の損傷 米医師団 : 
拷問を受けた結果、心臓停止したことから昏睡状態に陥ってしまったのではないかという疑いがでています。


日本では、多くの拉致被害者の方々が未だに北朝鮮に残され、横田めぐみさんの遺骨として渡されたものが、DNA鑑定で別人のものと判別し、北朝鮮が平気で嘘をつく国だと周知されていますが、米国ではいくら人権問題で問題視されていたとはいえ、普段は自分たちとは縁のない遠い国でしかなかったと思います。実際には2004年にも中国を旅行中に姿を消したアメリカ人男性が、北朝鮮に拉致されたとされていますし、他にも一時的に拘束され後に解放されたことがありましたが、今回の昏睡状態での帰国はなまなましく、あらためて北朝鮮の非道ぶりを米国国民に感じさせたのではないでしょうか。

では、トランプ政権が、この問題、さらに現在も韓国系米国人3名が逮捕監禁されている状況にどう対処するのかです。手を拱いていては、敵国に監禁された国民はたとえ一人であっても救出しないといけないという価値観のある米国でトランプ政権はビッグマウスなだけで、無能だというレッテルが貼られかねないのではないでしょうか。

経済政策では、成熟、あるいは衰退産業の雇用を増やそうとし、パリ協定離脱など米国の今後に期待できるビジネスの足を引っ張り、さらにロシア疑惑で揺れるなか、思わぬところでトランプ政権が試されることになったように感じます。

しかし、日本としては拉致問題解決を世界にアピールするいい機会が来ているのではないでしょうか。この問題こそ、米国や拉致被害国家の協調が、中国やロシアをも動かすのではないかと思えます。そのためには、まずは米国国民に拉致問題への関心を高めるためのキャンペーンを外務省に期待したいところです。