政府は閣議決定で、人口「一億人」は日本の豊かさの象徴的な数字とし、経済成長を維持するためには「一億人」を維持する必要があるとしています。そのとおりでしょう。人口が減少すれば、日本の強みともなっている国内の消費市場が次第にやせ細ってきますし、労働力の不足も経済の足を引っ張ります。さらに社会を維持するコストが働く世代に重くのしかかってきます。
ニッポン一億総活躍プラン 平成 28 年6月2日 閣 議 決 定(PDF)
日本にとっては今後の人口がどう推移していくのかがきわめて重要ですが、つい最近、 国立社会保障・人口問題研究所が「将来推計人口」の最新版を公表しました。それによると、一人の女性が一生に産む子供の平均数を示す合計特殊出生率は、近年の 30〜40 歳代の出生率実績上昇等を受け、前回推計の 1.35から 1.44に上昇したこともあって、人口減は緩和されたようです。しかし、今のペースでは、約50年後の2065年には総人口が3割減の約8800万人になります。
 
00
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」より 

出生率を高めに想定しても予測では1億人が維持ができる見通しはありません。そして日本にとって厳しいのは15〜65歳の生産年齢人口が今後ともさらに減っていくことです。働き手が確実に不足してきます。
 
19
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」より 

しかしそれにしても、なぜ安倍内閣がなぜ実現の見通しもなく、「一億人」の目標を掲げるのでしょうか。出生率を高めに想定してもやがて「1億人」を切ります。

ドラッカーは、不確実性が高まってきた現代でも、確実に未来が予測できることがある、それが人口動態だと言っていますが、そんな確実にやってくる不都合な現実に対しては、課題として掲げた、努力して一定の成果はあったというアリバイを残しておくに留めるということかもしれません。

人口減に対する処方箋は限られています。もちろん出生率を高めたり、労働生産性を高めるといった努力は欠かせませんが、決定打にはなりません。移民で人口減の穴を埋めるか、社会保障を大きくカットしていくなり、古くなった道路などのインフラを放棄し維持費を抑えることで対処することでしょうか。やはり、もっとも有効なのは移民の受け入れによる解決です。それが嫌ならみんなで貧しい国になっていくことに耐えていくしかありません。

実際は、すでに海外から日本にきている労働者は昨年に100万人を超え、どんどん増加してきています。安倍内閣は、支持基盤の保守層のなかに移民に対して強いアレルギーを持つ人が多いために、移民政策が進めにくいのでしょう。しかし、政治は逃げることができても、産業は逃げるわけにいかず、結局はなし崩しで海外労働者が増えていくという最悪のパターンになりかねません。なぜならそれでは、日本に来ても社会的な地位の保証がないために、ほんとうに日本が欲しい人材が集まってこないからです。

いや、逆に外国人観光客や外国人労働者が増えてくることで、それに日本社会が慣れていって、はじめて向き合える問題なのかもしれません。