連日、金正男暗殺に関する詳細な報道でメディアが賑わっています。見ていると、なにか捜査当局になったかのような、またにわか専門家になったかのような錯覚すら感じさせる濃厚で迅速な報道です。
それにしても、実行犯を釈放しろと主張したり、死因が発表されない段階から毒殺ではなく心臓麻痺だと言ったり、北朝鮮がなにかをコメントする度に、ますます自らの犯行だと言っているに等しく、なにか北朝鮮内部が混乱しているのではないかとすら感じてしまいます。

ところで、きっと韓国メディアが詳しいのかもしれないと思って日本語サイトをちらちら見ていたのですが、金正男暗殺事件のニュースに関しては、あまりに記事が少なく、また内容が乏しいことに違和感がありました。韓国はこの事件に無関心なのかと思わせるほどです。

ところが、それは、日本の報道が圧倒していた結果なのかもしれません。この事件に関しては、質・量ともに日本の報道に完敗だというコラムが朝鮮日報に出ていました。

このコラムは、この事件で、日本と韓国でマレーシア当局に深く入り込む人脈の違い、情報収集力の違いを思い知らされ、悔しい思いすら滲ませています。
アジア各国を行き来してかき集めた、具体的な取材の「ファクト」も、韓国より豊富だった。実行犯らが使用した車のナンバーの所有者がリ・ジョンチョル容疑者(47)だという記事も、金正男氏を襲ったインドネシアの女性(25)が「日本のテレビ局とドッキリ番組を撮るのだろうと思った」と言っていたという記事も、日本側が先に報じた。最高潮は、19日夜のフジテレビの報道だった。金正男氏の動線に沿って、数十台に上る空港の監視カメラの映像をつないで5分26秒の映像を流し、「負けた」という思いを抱いた。

 一国の情報力は、その国の国力や実力をそのまま反映する。今回の日本メディアの報道には、現地の警察や政府機関と深く付き合っていなければ入手できない情報が山ほどあった。

(略)
二人の女性が金正男氏を襲うのにかかった時間はわずか2、3秒だったという事実を、韓国政府やメディア、韓国国民は、日本のフジテレビの報道を見て初めて知った。 

中国が、中朝貿易の4割を超える石炭輸入を停止することを発表したのが、この事件と関係あるのか、トランプ政権から、北朝鮮の核・ミサイル問題で中国の責任を突かれることを避けるためなのか、あるいは両方なのかはわかりませんが、いずれにしても朝鮮情勢の緊張が高まってくるなかで、もっともその影響を受ける韓国で、もっと関心があってもいいはずです。いくら日本は拉致問題で、北朝鮮情勢に人びとの関心が高いとしてもです。

しかし韓国のメディアによっては、日本との取材力の差というよりは、まるで事件の報道を避けているようにすら感じさせるのは、もしかすると、韓国はTHAAD配備に関して国論が二分しており、北朝鮮への警戒心を高める金正男暗殺事件を扱うことは、腫れ物に触ることになり、避けたいという意識が働いているのからなのかもしれません。

この記者が「一国の情報力は、その国の国力や実力をそのまま反映する」と書いているのはその通りで、国内を振り返れば、大阪では都構想をめぐり、また東京では豊洲への市場移設問題もあって、人びとの関心がかつてないほど地方政治に向くようになっきています。また人びとの関心が高まるにつれ、そのエネルギーを受けたかのように報道にも力が入って、それが政治を動かす力学が生まれてきていているように感じます。日本もようやく自ら変わっていく機が熟しはじめているのかもしれません。