このところ、自動車産業だけでなく、シャープなどが米国工場をつくるという動きがでてきています。今日もインテルが米国にアリゾナ工場に70億ドルを投資するというニュースが流れていました。トランプ大統領の顔色をうかがっての話でしょうか。しかし、こういった報道、とくにテレビの報道のなかでキャスターやコメンテーターの方が、米国は人件費が高いので、製造コストが上がり、やがて価格に影響してくるので成り立たないという発言が目立っています。多分、そう思っている方が多いのではないでしょうか。

しかし、はたしてそうなのでしょうか。 

製造業の米国回帰はここ何年かのトレンドになっていました。トランプ砲が放たれる前から、GEやフォード、キャタピラーなどが中国の工場の一部を閉鎖し米国内に戻しています。またオバマ政権でも製造業の国内回帰を促す政策を進めてきました。実際、リーマンショックでいったん落ち込んだ米国製造業の生産量は緩やかに増えてきています。
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ただ、製造業といっても千差万別です。素材や部品の産業もあれば、組み立て産業もあります。特許やノウハウの塊のような製品を生み出す産業もあれば、設備さえあれば誰でも製造できる産業もあります。トランプ大統領の危うさは、その区別がついていない可能性が高いことです。もっとも付加価値の低い組み立て工場をいくら米国につくっても、人件費の高い米国では競争力がありません。

競争力がないだけでなく、組み立てれば組み立てるほど、付加価値の高い素材や部品の輸入が増え、貿易赤字を拡大させる結果になります。

しかし、先日も取り上げましたが、米国での製造コストは下がってきています。まだ、賃金が高いと言っても、その格差は縮小してきています。トランプを支持した白人の労働者の給与は長い間上がっていません。もうひとつの生産性が上がってきています。生産性があがったということは人が減ったということです。そしてシェール革命があって、天然ガスや電気をはじめとするエネルギーコストが低下してきたという背景があって、米国工場でもコストが下がったのです。

ボストン・コンサルティング・グループのレポートでは、米国での製造コストは、EU各国だけでなく東欧各国よりも低く、中国と比べても、差は米国を100とすると中国が96にすぎません。それなら、政府の思惑で揺さぶられ、また不安定な要因が多く、さらに人件費が高騰している中国から米国に製造拠点を移す動きが起こってくるのは合理的な企業判断です。

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トランプ砲は、製造業の国内回帰を刺激したけれど、実はその背景に本質的なコスト構造の変化があって、製造業が戻ってきていると見るのが自然です。アメリカで製造しても、高くつかないし、高度な素材や部品だと製造と開発を一体化させたほうが有利だから工場をつくるのです。

日本のメディアのキャスターやコメンテーターの方がおっしゃるようには、アメリカで製造してもコストは上がらないし、ただ、トランプ大統領が期待するほどの雇用が増えるのかというと、そちらのほうは怪しいのです。

付加価値の高い製造業で雇用が増えるのは、皮肉なことに、トランプ大統領を生みだした白人労働者ではなく、人種を問わず、高学歴の知的労働者だというのが落ちでしょう。


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