トランプ次期大統領がツイッターでトヨタを脅しにかかった件で、間違ってはいけないのは、それはトヨタが日本の企業だからそうしたのではないことです。すべての自動車メーカーにメキシコに新工場をつくり、NAFTA(北米自由貿易協定)を利用して関税なしでメキシコから米国に輸出しようという目論見を持つなら、報復するがそれでもいいのかという脅しで、すでにフォードがメキシコの工場新設中止を表明しています。

フォードのマーク・フィールズCEOは、CNNとの単独インタビューで「トランプ氏との間で取引があったわけではない。我が社の事業のためにしたことだ」と強調したようですが、そんなこと誰が信じるかです。

トランプがやろうとしているのは、日本叩きではなく、グローバル化によって疲弊した米国の中間層の雇用や所得を増やすために、グローバル体制膨張を阻止し、海外に流出した製造業を国内に取り込んでいくことです。

たしかに、グローバル経済の奔流は確かに企業を成長させ、膨大な利益をもたらしたのですが、それはそれぞれの国の国民を豊かにしてきたとは必ずしもいえません。

メルマガに書いたのですが、アップルを考えればわかりやすいかもしれません。膨大な利益を稼ぎ出し、時価総額でトップを誇っても、製造部門の雇用はすべて海外、とくに中国です。もし今のアップルがかつての製造業であればはるかに多くの雇用を生み出していたはずです。

アップル製品の製造を担っているのは台湾資本の鴻海精密工業で、こちらは中国で130万人の雇用を生み出しているといわれています。そう単純な話ではないにしても、アップルの売上がほぼ4割とすれば、50万人が鴻海でアップルのために働いていることになります。

一方のアップルですが、従業員数はどれくらいだと思われますか。たった11.5万人です。ちなみにグーグルの従業員数は53,600人、Facebookにいたっては15,700人に過ぎません。米国の経済を牽引してきたこれらの企業は結局はたいして雇用を生み出してこなかったのです。いくら移民による人口増とITをテコにしたグローバル化で米国のGDPが伸びても、それは多くの国民には還元されない構造を抱えてしまったのです。

皮肉なことに米国はそのグローバル経済や移民でGDPを伸ばしてきたもっとも代表的な国です。常識ではトランプの保護主義は米国の成長エンジンを低下させることになりますが、別の見方をすれば、雇用が創出され、中間層の所得が増え、米国の国内消費は伸びます。

もしトヨタもメキシコの新工場建設を諦め、米国国内建設に計画を変更すれば、自動車産業は、トランプに屈したことになります。そして、それは中国製品の輸入にも障壁をつくりやすい状況になります。なぜなら、中国に製造拠点を持つ米国の企業、あるいは米国市場に根付いているグローバル企業を脅せばいいだけで、新たな関税を設けなくとも、製造業の米国回帰をさらに促せるのかもしれないのです。

今の世界の経済停滞は、需要の不足なのでトランプの保護主義にも理があるのかもしれません。しかし、先のことなどわからない、ケセラセラです。過去の常識が通じない、不確実性の高い現代はなおさらです。

今年はトランプ旋風だけでなく、ヨーロッパでも、EU体制維持か、EU崩壊かを左右するせめぎ合い、重要な選挙が相次いでやってきます。EU経済はドイツひとり勝ちで、そしてまるで民族大移動のように難民が流入し、テロなどの社会不安が広がっている状況なので、なんらかの激震が起こっても不思議ではありません。
 

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