都知事選にでるのかどうかで注目が集まった蓮舫さんが2009年の事業仕分けで放った「2位では駄目なんでしょうか」という質問はあまりにも的を射たものであったために、スパコン利権に蠢く人たちからの反撃も凄まじかったことはご記憶だと思います。

それだけならよかったのですが、冷静にスパコンの価値がなになのか、何を競争力として、なにで1位になるのかを考えるいい機会だったと思ったのですが、そんな議論とはならず、研究者の高い志を愚弄するものだ、また蓮舫さんに憤ることが愛国心だと錯覚したような批判が渦巻いていました。マスコミが発言の一部だけ切り取り、誤解を与える報道を行ったことが騒動を大きくしたのですが、同時に日本の競争力を失わせる原因ともなってきたモノづくり神話がいかに社会に深く根ざしたのかを象徴する出来事でもあったような気がします。


できれば、演算処理能力が高いほうがいいとしても、それだけがスパコンの価値の尺度ではないはずです。たとえば運動選手で足が早いのは才能です。しかし陸上100メートルの桐生選手は日本では最速の人でしょうが、ラグビーのゲームにでて通用するかというとまた別です。求められる能力が異なります。


スパコンもおなじです。どのような競技にでて、どのような能力で勝っていくのかを決めることが戦略だとすると、日本のスパコンに関しては戦略がなかったことになります。


その後「京」の存在は人々の関心から遠ざかりました。


さて「京」はその後どうなったのでしょうか。年に2回発表されるスパコンの処理速度のランキングでは、2011年に「京」が1位になったものの、翌年にはIBMとクレイ社に抜かれ、2012年以降はトップは中国の独占状態です。直近では「京」は2位どころか5位に転落しました。


そして、最新のCPUをインテル製から国産に切り替え直近のトップを獲得した中国のスパコンの演算速度は「京」の9倍だといいます。

インテル、入ってない 純中国製スパコンが速度世界一 Yahoo!ニュース :


しかし、ようやく日本のスパコンも戦略を立てる動きがみられます。1300億円を投じ、20年ごろの完成を目指す次世代スパコン「ポスト京」は「計算能力が京の60〜70倍」だそうですが、独自の国産CPUから英アーム・ホールディングスの基本設計を採用する方向に大きく転換します。標準的な部品を使うほうが、コストダウンにもつながり、使えるソフトが広がるからです。

富士通、スパコン頭脳に英社の設計採用 戦略転換  :日本経済新聞 :


つまり、国産CPUにこだわってガラパゴス化するのを避け、利用を広げたいということでしょう。


また、演算速度では「京」の40分の1にすぎないのですが、「京」の練習台として2011年から稼働している計算科学振興財団のFOCUSスパコンシステムは、フル稼働が続き、「昨年12月17日までに217法人が287テーマ」(日経)で利用されているといいます。

FOCUSスパコンシステムとは | FOCUS スパコン | 公益財団法人 計算科学振興財団 : 

重要なのは、スパコンはあくまでイノベーションのための道具で、利用を広げ、利用を高度化させることです。


スパコンの普及のためには省電力も極めて重要です。その点では、日本の「Shoubu(菖蒲)」は、省エネランキングGreen500で3期連続の世界第1位をとり、直近では「Satsuki(皐月)」も2位を獲得しています。

スーパーコンピュータ「Shoubu(菖蒲)」がスパコンの省エネランキングGreen500で3期連続の世界第1位を獲得 | 理化学研究所 :



ようやくスパコン開発も「戦略的」になってきた兆しであればと願うばかりです。


少なくとも、「2位では駄目なんでしょうか」という蓮舫さんの素朴な疑問に、「絶対1番でなければならない、しかし何で1番になるのかを決めることが重要だ」いう反撃がなかったあの頃よりは進歩したのではないでしょうか。

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