「マツコの知らない世界」(TBS系)で紹介されたことで、シャープのおしゃべりロボットをめぐって賛否両論で盛り上がっているようです。無駄な機能をもったこんな製品を出すからシャープは駄目なのだとか、「癒やしてくれる掃除機」に目をつけたシャープらしい製品だとか。いやいや、そうではなくシャープがはまってしまったのは、成熟しコモディティ化してしまった市場で、製品力や技術力で差別化したり、優位にたてると考えてしまったことでした。「モノづくり神話」で迷走してしまった結果です。
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シャープの経営頓挫は必然だったのか? マツコもお気に入りの「おしゃべりロボット掃除機」で議論 | キャリコネニュース

シャープが巨額の赤字をつくってしまったのは液晶と太陽電池の事業です。おしゃべりロボット「COCOROBO」をだしている健康・環境事業は、まだ「目のつけどころ」で違いがつくれる分野で、決して高収益事業とはいえないにしても、赤字にはなっていません。

巨額の赤字をつくった液晶も太陽電池も、いずれもがコモディティ化してしまった製品の典型ですが、コモディティ化してくると、製品や技術で他社製品との差別化や優位性をつくるという発想では、新たな競争状況を乗り切れなくなってきます。それを見誤り、このふたつの事業に巨額の投資をしてしまいました。

液晶で技術があるといっても、もはや売り物になるほどのものではありません。中国のメーカーでも、製造技術さえもってしまえば、液晶を支える先端の素材や部品、あるいは製造装置は日本からいくらでも供給されてくるからです。

実際、韓国や中国のメーカーとの品質差はなくなり、どんどんシェアを奪われてきました。赤字体質の太陽電池事業にいたっては、撤退するかと思うと、「再建の柱にする」と耳を疑うような道を選んでいます。販売力が優れているわけでもなく、しかも自社生産は1割り程度で、ほとんど中国製品を売るだけの事業でしかないにもかかわらずです。勝算のないままに、暴走したとしか思えません。
苦境のシャープ、なぜ太陽電池を続けるのか | 週刊東洋経済(ビジネス) | 東洋経済オンライン |

どの市場に、なにで切り込んでいくのかという戦略で違いをつくる、つまり激戦地から逃れ、独占できる新たな市場分野を切り開くことが正攻法ですが、シャープには液晶や太陽電池というコモディティ化した分野で、そういった戦略らしい戦略を打ち出すことはありませんでした。

岡目八目というか、外から見れば、誰が見ても経営の無策と迷走に見えますが、悲しいことに、組織の中にいると見えなくなってしまうのだと思います。

さてシャープは、鴻海傘下で再建をめざすことを決定しましたが、「二十四日に新たにシャープが提出してきた文書の内容を整理するまで調印を延期したい」と鴻海側から声明がだされています。さてどうなるのでしょうか。シャープ側に将来的に最大3,500億円の新たな債務が発生する可能性がでてくることが示された資料だったからでしょう。その額は、シャープの時価総額をほぼ1000億円上回っています。それで「ハイハイ承知しました」はない話です。
詳細はこちらのブログがまとめてくれています。ここでも太陽電池事業は足を引っ張っています。
「シャープ 偶発債務3,500億円」報道に思う

前回に鴻海からの支援がストップしてしまったのは株価が暴落したために、買収条件が変わってしまい、台湾政府が認めなかったということでした。今回ももし、今後発生しそうな債務に関して事前に提示がなかったとすればシャープ側に疑問符がつくところです。

鴻海の郭台銘会長は叩き上げで巨大企業を築き上げてきた人です。今回のシャープ買収のように、思い切った意思決定をする胆力もあるでしょうが、リスクに対する感度も人一倍だと思います。さあ、もし鴻海が手を引いたらどうするのでしょう。

鴻海はシャープを前向きに必要とする稀有な企業です。最後発とはいえ、有機Elパネルで、液晶市場に参入しようとしていますが、シャープの生産技術、とくに技術開発力が喉から手がでるほど欲しいはずです。鴻海には戦略や投資能力はあっても、開発能力は劣るからです。

互いにない能力があり、いいカップルではないでしょうか。ジャパンディスプレイと合併しても、競争相手が一社減るだけでなにか合併効果があるのでしょうか。想像がつきません。

さあ、シャープの行方はどうなっていくのでしょうか。豪腕の郭台銘会長はきっと揺さぶりをかけてくるのでしょうが、提示する条件がさらに厳しくなってきそうです。シャープに必要だったのは、楽観的な見通しで問題を放置してきた敗軍の将の経営者ではなく、タフな交渉人だったのかもしれません。

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