今後10年の農業政策の方針で、食料自給率の目標を現行の50%から45%に引き下げる閣議決定がなされるようです。まだ目標として残すあたりがいかにも中途半端な感じもしますが、「カロリーベース」による食料自給率の向上という政策が行き詰まり、いよいよ本来あるべき「「高付加価値品の育成」へと舵が切られるとすれば期待したいところです。
食料自給率目標、45%に下げ 高付加価値品育成にシフト :日本経済新聞
農業への保護政策なり、農水省の予算確保のためにはなんらかの大義名分が必要で、そこで使われてきたのが「カロリーベース」の食料自給率でした、有事になれば、食料が確保できなくなるという理屈で、「食料安全保障」とたいそうな旗印まで掲げて、農業の社会主義的な保護政策を進めてきたのです。

さて、あらためて整理しておきたいのですが、食料自給率にはふたつの数字があります。「カロリーベース」で計算して出したものと、「生産額」で計算したものです。

食料自給率が39%と聞けば、日本はほとんどの食料を輸入に頼っているのかという印象を受けますが、もし食料自給率が65%ということになると、やはり国内でつくられているほうが主なんだということになります。

前者が「カロリーベース」による食料自給率で、後者が「生産額」による食料自給率です。(平成25年の結果:農水省の算出)

いくら野菜が国内で栽培されていても、野菜はカロリーが低く、また卵も、よほどのブランド卵でもないかぎり、鶏の飼料はコストの安い輸入品が使われるので、96%は国内で生んだ卵にもかかわらず、自給率は10%を切ってしまいます。

卵で考えれば、いくらなんでも変だということがわかります。だからカロリーベースの食料自給率というのは普通、海外では使われません。

どちらの尺度でもいいのですが、カロリーべースの食料自給率をあげるためには、たったふたつの政策で十分です。

「輸入小麦に高い関税をかけ、国産小麦でも競争できるようにする」のと、
「牛にしても豚にしても鶏にしても、輸入飼料に高い関税をかけ、国内での飼料生産を増やす」のふたつです。

それで画期的に食料自給率は改善します。

しかし、TPP交渉で農業分野も自由化が迫られているなかで、さらに新たな関税をかけようという政策はとれません。

それ以外の有効な政策ははたしてあるのでしょうか、もしあればお教えください。これまで農水省は、政治家も巻き込み、いろいろと組織をつくったり、PRに努めたり、予算をつかってきたのですが、逆に自給率は低下してきたのです。

つまりまったく税金の無駄遣いをやってきたのです。結果がでないのは、最初から実現できるわけがないことを政策として掲げてきたからです。

それでも、有事に飢えたらいやだから食料自給率は大切だという人もいるでしょうが、有事で日本がもっとも困るのは食料ではなくエネルギーです。そちらをまずは心配するほうが自然です。食料は、いくらでも農地は余っているので、そこで飼料をつくればいいだけです。市場がいくらでも調整してくれます。

民主党政権時代に、社会党出身の赤松さんが農相となり、農業政策を改革するのか
と思いきや、産直を批判したり、食料自給率の目標を45%から50%に引き上げ、また自民党顔負けの農家保護にでて驚かせたのですが、カロリーベースの食料自給率という発想は、日本型社会主義とも相性のいい政策だったということでしょう。
お笑いは現在の民主党代表の岡田さんを意識してか、「イオンだってもうかっていない。何でも産直がいいというのは間違いだ」なんて発言していたこともありました。
 卸売市場強化という赤松農相の意図がわからない

食料自給率の目標を現行の50%から45%に引き下げるという今回の動きは、それをもとの数値に戻すだけなら抵抗がなく、そこを落とし所に、実質的には路線を変えるということなんでしょうか。

いずれにしても、実現しない目標を掲げた政策を、不安を煽って推し進め、無駄な予算を使うことからは、早く卒業してもらいたいものです。ほんとうに日本に必要なのは、競争力のある農業、健全に持続できる農業づくりであって、決して「カロリーベースの食料自給率」ではないのですから。


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