飲食で絶好調といえば鳥貴族がまず浮かびます。年々売上二桁増が続き、昨年7月に東証ジャスダックに上場した元気印です。月次情報を見ても、売上高、客数ともに前年をクリアし続けています。対照的なのがワタミです。客離れがじわじわと広がり、業績が冴えません。そんな低迷を打開するために、主力の「和民」で、離れた若者を呼び戻すために、メニュー見直しを10年ぶりにおこない、値下げを行うようです。料理では300円未満の割合を4割に引き上げ、約7割が400円未満で注文できるようにするとか。
和民、10年ぶり値下げ 若者離れで方針転換  :日本経済新聞
鳥貴族は国産鶏肉を使って全品280円です。なかなかやるなと感じます。kindleで「鳥貴族『280円均一』の経営哲学」をざっと読んでみましたが、一貫してバリューを追求している経営姿勢や考え方が伝わってきます。それに同じ業界ではなく、コンビニに負けない価値を提供しようとしている視点も面白いところです。

鳥貴族「280円均一」の経営哲学
大倉 忠司
東洋経済新報社
2013-05-20


さてそのワタミと鳥貴族ですが、それぞれで、ずいぶん違うと感じたのが経営理念です。

鳥貴族は、3つの理念を掲げています。
第一が「鳥貴族のうぬぼれ」で、「焼鳥屋で世の中を明るくしたい」のだそうです。第二が「外食産業の社会的地位向上」、第三は「永遠の会社」で、社会や従業員との関わりの中で永続することをめざしているそうです。

ワタミは、グループ全体では「地球上で一番のありがとうを集めるグループになりたい」のだそうです。外食を展開するワタミフードシステムは、「一人でも多くのお客様にあらゆる出会いとふれあいの場と安らぎの空間を提供すること」がミッションとして書かれています。

理念を比べると、鳥貴族に軍配をあげたくなります。

鳥貴族の「焼鳥で世の中を明るくする」ことは、ある程度は実現ができそうです。仲間とワイワイやれば楽しめるでしょうし、暗い気分を吹き飛ばしたいから行くということもあるでしょう。

一方のワタミの「地球上で一番のありがとうを集めるグループになりたい」はなにか宗教じみたものを感じます。和民に行って、ありがとうなんて感謝するお客さんがどれだけいるのでしょう。せいぜい満足しても「ごちそうさま」ぐらいでしょう。しかもブラック企業の烙印が押されてしまうと、「ありがとう」を集めるために、お客様に対して、従業員に滅私奉公で働けと言っているようにすら感じます。

それに、「一人でも多くのお客様にあらゆる出会いとふれあいの場と安らぎの空間を提供すること」とありますが、「和民」あるいはワタミの他のお店のレベルで、「あらゆる出会いとふれあいの場」はありえません。外食のお店はワタミ以外にもいくらでもあるので、お客さんは、目的や予算に合わせてお店を選びます。

お店での気持ち良いサービスを実現するためには、馬車馬のように働くことを社員の人に求めるよりは、従業員満足を追求したほうがいいと思いますが、経営計画を見てもそれについては見当たりません。

ワタミの社員に対する考え方には、基本的に、景気後退によって安い労働力を得ることができた時代の発想を感じてしまいます。それは、若い労働力が不足してきた今日では当然無理な話になってきます。
働く楽しさ、働きがいが見いだせない職場では、当然ストレスも高まり、それが負担感をさらに高め、お店の雰囲気も淀んできます。気持よく働けるお店なら、その雰囲気が、自ずと伝わり、お店も活気がでてきます。

ワタミの不振は価格だけの問題なのか、値下げでほんとうに客が戻ってくるのかは疑問に感じるところです。もし客が戻ったとしても一時的な効果で終わり、長続きしないという気がします。外食事業だけでなく、有料老人ホームの入居率も80%を切る状態、宅食事業もまったく伸びていないことを合わせて考えると少々のテコ入れでなんとかなるということではなさそうです。

ワタミが復活するためには、値下げという小手先の手法ではなく、経営の根本的な考え方や理念の再構築が必要だと感じます。しかし、それはなかなか望めそうにありません。なぜなら、今でも、ワタミの実質オーナーは渡邉美樹氏で、自らの経営観が正しいと信じて疑っていないからです。田原総一朗さんとの対談記事でそのことがよく分かります。
渡邉美樹「ブラック企業疑惑のすべてに答えよう」:プレジデント

ちなみに、ワタミの発行済み株式の4分の1超を保有する筆頭株主は有限会社「アレーテー」ですが、実質渡邉美樹氏の会社です。詳しくはこちら。
「ワタミ」渡邉美樹氏の17億円の資産一覧と、藤巻健史氏の海外資産

余談ですが、鳥貴族を調べていて、わかったのが大倉社長のご長男が関ジャニ∞の大倉忠義さんだそうです。ずいぶん個性的というか多方面でご活躍のご家族ですね。

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