素直に見れば、えっ、それって違うんじゃないかと感じたのが、日米共同記者会見での「尖閣は日米安保の適用対象だ」としたオバマ大統領の発言に関する各メディアの論調でした。各紙とも、大統領が明言したことの意味は大きいとしていますが、それは間違いないとしても、ずいぶん前のめりではないかと感じる報道も目立ちます。冷静に社説を書いていたのは、めずらしく、いや失礼、朝日新聞ぐらいではないでしょうか。
(社説)日米首脳会談―アジアの礎へ一歩を:朝日新聞デジタル
オバマ大統領の発言は、まるで習近平にむかって話しているように感じるとおっしゃっていた方がおられましたが、確かに中国への配慮が滲んでいたように感じます。安倍内閣はもちあげないといけない、しかし米中関係も悪化させたくないという姿勢が感じられました。

それは米国国内の世論をも反映しているようにも感じます。米国の世論は、中国も大事、日本も大事だということですから。
アジアの最重要国、日本2位に転落 米世論調査、首位は中国 - MSN産経ニュース

日本のメディアが「尖閣は日米安保の適用対象だ」と明確にした発言で、思考が止まってしまったのか、核心をつく質問をしたのは、日本の記者ではなく、米国の記者でした。

中国から尖閣諸島を守るために米国は武力を行使するのか―。


ほんとうに、気持ちいいぐらいストレートの豪速球、ど真ん中の投げ込まれた質問です。

その回答は「規範に反した国が出るたびに米国は武力行使しなければいけないということではない」というものでした。シリアでの実績も交えて、ずいぶん長々とした回答で、むしろ安倍内閣の対中国外交にも注文をつけるものでした。
「いくつか予断に基づいた質問といえるが、そして私はそれに同意できないところがある。米国と日本の条約は私が生まれる前に結ばれたものだ。ですから、私が超えてはならない一線を引いたわけではない。これは標準的な解釈をいくつもの政権が行ってきた。この同盟に関してだ。日本の施政下にある領土は全て安全保障条約の適用範囲に含まれている。そしてレッドライン、超えてはならない一線は引かれていない。そして同時に首相に申し上げたが、この問題に関して事態がエスカレートし続けるのは正しくないということだ。日本と中国は信頼醸成措置をとるべきでしょう」
「できる限りのことを外交的に私たちも協力していきたい。そしてもう一つの問題についてだが、私たちの立場、米国の立場は、国は国際法に従わなければならないということだ。国際法や規範が、侵害されたりするわけです。こうした規範に違反した国が出てくるたびに、米国は戦争をしなければならない、武力を行使しなければならないというわけではない。」
【日米共同記者会見・抄録(3)】安倍首相「日本の集団的自衛権にオバマ大統領が歓迎、支持した」+(4/5ページ) - MSN産経ニュース

つまり、「尖閣は日米安保の適用対象だ」として中国を牽制はしたのですが、もし尖閣に中国が武力で侵入したとしても、外交努力はするけれど、アメリカは軍事行動をとらない可能性もあることを示唆したのです。

おそらく、米国と日本の軍事力をあわせれば、まだまだ中国をはるかに上回っているという自信が背景にあって、「尖閣は日米安保の適用対象だ」とすることで中国に対する牽制球としては十分だということかもしれません。

しかし一方では、アジアに不安定をもたらす、あるいは現在アメリカが国益として重視している米中関係をこじらせる状況をつくらないように安倍内閣の努力を求めたと解釈するほうが自然だと感じます。

「現実主義者」であることを随所に感じさせたオバマ大統領にとっては、人が住んでおらず、なんら価値のない島で、日中が、また日韓が互いに、「領土は核心的利益だ」と目くじら立ていがみ合うこと自体が異常に見えるのでしょうし、もし、紛争が起こり、戦闘に米国が加わり、犠牲者がでるような事態が万が一起これば、政権がふっとんでしまいます。

オバマ大統領は、おそらく韓国の朴槿恵大統領にも、日韓関係改善の努力を強く求めると思いますが、米国抜きでも、互いが、自らの知恵で、この地域の安定と繁栄を築いていける時代がはやくこないものかと願うばかりです。

1972年の日中国交正常化を果たした際に、尖閣問題は「後の世代の知恵」に委ねようとして棚上げしたかどうかについては、外務省が公表している「田中角栄・周恩来会談」の記録に田中首相の返答が残されていないので真偽のほどはわかりませんが、もしそうだとしたら、「後の世代の知恵」が求められているのは、支持率が高く、政権が安定している「今」では、ないでしょうか。