このところ、佐村河内守氏の馬鹿馬鹿しくなる話題でメディアが湧いていますが、すっかりアベノミクスの本丸であるはずの「成長戦略」が話題から遠のいてしまったという印象を受けます。昨年末の臨時国会を安倍内閣は、成長戦略実行国会と位置づけ、「新たな成長戦略 〜日本再興戦略-JAPAN is BACK-」として9つの法案が成立したのですが成長戦略としての力強いアピールに欠けるものでした。実際、結果として、アベノミクスの成長戦略への失望もあって、それまでの株高をつくった外国人投資家の日本株の売りが起こり、年明けの1月には2011年8月の1兆5263億円以来の1兆529億円の売り越しとなりました。
新たな成長戦略 〜「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」〜 | 首相官邸ホームページ
異次元の金融緩和」はサプライズとなり、円安と株高を誘発させ、一時的には景気の回復感と経済見通しへの明るさをつくったことで高い内閣支持率が維持されてきていますが、設備投資の伸びや消費動向、実質賃金が7カ月連続で低下する、またGDP伸び率の足踏み状態を見る限り、賞味期限切れのサインがちらほらとでてきており、消費税増税後が不透明化してきています。

さらに、経常収支の赤字国への急激な転落です。最大の原因は円安によって輸入額が急増したことですが、政府の誤算は円安で輸出が伸びると考えてしまったことです。しかし輸出数量は伸びなかったのです。そして円安が貿易赤字を拡大させ、2013年の貿易赤字額は11.4兆円と前年比65%も増えてしまいました。それによって、昨年10月以降4ヶ月連続で経常収支までが赤字となり、1月の国際収支状況(速報)では、過去最大の1兆5890億円となっています。

経常収支が赤字となっても、すぐさま大変だということではないでしょうが、巨額の財政赤字と、経常収支のふたごの赤字を抱える国になるということは、日本のイメージが悪化してきます。さらに金利上昇など、予測できない事態が起こってくる可能性も否定できません。

貿易赤字に関しては、日本の産業構造を考えれば、あるいはビジネスに携わる人なら、円安で輸出が伸びる分野があっても、それが限られていることぐらいは、ほとんどの人がわかっていることです。日本はすでに貿易で稼ぐ国ではありません。

またJカーブ効果と言って、円安効果は遅れてやってくるという説もあったのですが、もう付加価値の高い分野でしか海外市場で勝負できない日本の産業が円安だから突然輸出が伸びるというものでもありません。Jカーブの前に、輸出産業の製造拠点がJターンしてくれればまた別ですが、エネルギーコストがさらに上がった昨今ではなかなか難しい話です。

普段購入する家電にしても衣料品にしても、あるいは家具やインテリア用品でも、高級品ならいざしらず、いくらブランドは日本の会社のものだとはいっても、製造が日本というものはもう珍しい時代となってきています。それが現実であり、統計ではみんな輸入品です。もしそのなかで商品がヒットし、海外で売れたとしても、海外の製造拠点から出荷されるので、日本からの輸出にはなりません。

貿易赤字は先進国としては普通で、しかも、日本はすでに「貿易立国」ではなく、金融商品の売買で売られる収益や企業が海外に工場をつくったり、店舗を開いて得られた利益などの所得収支によって稼ぎ、経常収支をも支えるステージに入っていたのですが、いくら所得収支が黒字だと言っても、それでは埋めることができなくなるような貿易赤字が続いてきているということです。

経常収支の赤字化については、エコノミストの方々は、楽観論、悲観論といろいろな説を掲げていらっしゃいますが、小笠原さんのブログで書かれていることが腑に落ちます。
いんちき経済学に踊らされた日本経済の行く末


やはり問題の本質は、日本の経済が活性化することです。そのためには、多くの分野が成熟化してきており、伸びる可能性のある市場を切り開いていく力を日本の企業が生み出すことになってきます。

付加価値が高く、伸びる市場で、国際競争力を高めることしかないのです。付加価値が高いというのはなにも価格が高いということではありませんのでお間違いのないように。
それは自らが切り開いていくしかありません。

所得も、掛け声で上がるというものではありません。円安で潤った産業がベアをやることはいいことですが、それも限界があります。

思い出すのは経済音痴の菅直人元首相が「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と叫んだことです。雇用が増えるためにはそれぞれの企業が業績をあげ、今後とも業績が伸びるという見通しをもつことが絶対条件になってきます。いくら叫んでも雇用が増えるわけではなく、残された手は公共事業を積み上げるしかありません。経済が活性化してくれば、雇用も増え、労働市場が逼迫し、所得もあがってきます。順序が違います。

ところで、経常収支赤字で楽観論を唱えておられるなかに、エコノミストの安達誠司さんのブロゴス記事があります、気になったのは日本の競争力が低下していないということが書かれていますが、認識が違うなと思うのは、それぞれの分野の産業規模や、成長性が考慮されていないことです。
確かに電機や資本財に属する輸送用機械(トラック等)、及び玩具の競争力が低下していることが確認できるが、代わって、金属、化学(産業素材)の競争力は逆に上昇していることが示される。また、自動車(耐久消費財)の競争力は80弱の高水準でほとんど一定で推移している。すなわち、個別の産業をみると、競争力の低下に見舞われている業種も散見されるのは事実だが、逆に競争力が増大している業種もあり、総合的に判断すると、この5年間で日本の製造業の競争力の低下が著しいとは考えにくいのである。
経常収支黒字減少のなにが問題なのか? - 安達誠司 (1/3)

確かに自動車産業は健闘しています。ほんとうによくやっていると感じます。しかしその他の分野はどう見ても、そのなかにたとえ優良な企業があったとしても、日本経済を牽引するというところまではいきません。金属、化学(産業素材)の競争力は上昇しているとはいっても、それらは部品や素材にすぎないからです。たとえば化学製品では日本は液晶用のフイルムでは世界でトップでシェアも高いのですが、それでも液晶全体の市場の大きさからすれば小さな分野です。

スマートフォンのコスト分析でもやっていただければ、利益をどこがもっとも得ているのかがわかりますが、そんな視点が必要です。

やはり、いくら経済のマジックをつかっても、最終は成長戦略にたどり着いてきます。しかも、それは企業の経営マインドにかかっています。政府ができることは、新しくビジネスチャンスが生みだされそうなところで規制緩和を行い、そこでチャレンジしてみようというチャレンジャーがでてくる後押しをするしかないと言っても過言でないと思います。

安倍内閣は復古主義が好きそうで、お友だちの度重なるうかつな発言が海外の日本への不信感となっていますが、「新たな成長戦略 〜日本再興戦略-JAPAN is BACK-」も、「JAPAN is BACK」の心には、昔はよかったんだ、昔を取り戻せみたいなニュアンスを感じてしまいます。新しい日本の創出戦略」「Create New Japan」とでもお題目を変えて、どうすれば、みんなで一緒に明日にチャレンジしようよという気運が生まれる政策を再構築してみてはどうでしょうね。