結論から言って、円安になって輸出が伸びたという兆候はありません。輸出産業が円安で価格競争力を増して、それで海外でも売れるようになり、輸出が増えればアベノミクスも成功でしょうが、現実はなかなかそうはならないのです。
もちろん、円安で輸出産業は潤います。100ドルで売っていたものが、円では8,000円を切る売上にしかならなかったものが、数ヶ月で10,000円近くまでに増えることになったり、海外工場から得られる利益も、同じ理屈で増えるので、輸出企業にとっては、これほどめでたいことはありません。しかし、それで競争力が高まり、貿易量が増えてこなければ、日本の経済の成長にはつながってこないのです。

2月の貿易統計を見ると、輸出の数量指数は前年同月比でマイナス15.5%で9ヵ月連続の減少、金額でもマイナス2.9%でした。つまり円安でも輸出量は減り、円安で輸出金額はカバーできたという側面が伺えます。輸出数量で増えたものは、「有機化合物」だけでしたが、おそらく価格で決まる要素が強い分野だからでしょう。3月上旬の速報値でも、輸出金額は前年同月比でマイナス6.2でした。

この数値を見ても、円安だから輸出が伸びるということにはならないということです。いくら円安になっても、スマートフォンや液晶テレビが海外で売れるようになるというものではありません。競争は価格だけで行なっているわけではなく、製品力、マーケティング力などを含めたもっと総合的なものだからです。価格で貿易が大きく左右されるのは付加価値の低い産業に限られてきます。日本の家電の海外での敗北は、かつての小泉政権時代の今よりも円安であったときにも、すでに始まっていたわけで、円安が国際競争力を高めるというほど単純ではないのです。

韓国で日本の自動車のシェアが高まりましたが、こちらは円安とは関係ありません。米韓FTAのおかげで、韓国に輸出される日本車は、日本からではなく、米国からのものです。

今は、株高で世の中が明るくなり、また東京のマンションが売れるようになりましたが、それは資産が移動しているだけの話です。それらが実体経済にプラスになってくるかどうかは今後次第です。

そうそう都心の不動産が高騰するということでの湧いていますが、そうなるのは、限られた地域だけで、全国で見れば、人口が増えないので、年々空き家率が高まっていきています。もし地方にも波及すればそれはバブルにしかすぎず、やがては弾けます。


今の状況では円安が輸入物価を押上げ、コスト増になり、企業収益が圧迫される、所得が上がらないなかで物価だけがあがるという弊害も起こっており、それがいつまでも続くと景気は悪化します。つまりアベノミクスも三本目の矢としての成長戦略いかんだということですね。

また気になるのは、G20で各国の財政の健全化をはかるべきだという議論が始まったことをロイターが伝えています。ロイターが指摘しているように、日本にとっては厳しい話です。
こうした目標は、債務の対GDP比率が90%となっているEUや、約105%の米国にとっては受け入れやすい可能性があるものの、200%を超えている日本といった国にとっては難しいかもしれない。
黒田総裁率いる日銀の異次元の金融緩和と政府の財政出動による財政の悪化が進む中で、こういった話が進んでくると日本売りが加速され、気がついてみるとハイパーインフレと、国債暴落で日本経済が壊滅的な打撃を受けるのではないかと心配をしてしまいます。
アベノミクスは、誰もが経験したことのない大博打なのですから、吉とでるのか凶とでるのかは神のみぞ知るということになっています。

だから成長戦略や日本の構造改革、また財政規律を回復させ、国の借金を減らしていくことが急がれるのですが、さて安倍内閣は実態経済の活性化に、どうのような政策を打つのでしょうか。くれぐれも日本が失敗してきた国家資本主義的な成長戦略だけはやめてもらいたいものです。