画像の価値についてあまり考えていない人たちが夢をふくらませていると感じてしまうのが4Kです。日経が4Kを取り上げた今日の記事で、4Kで画像を見ると、「精細度の高さによる立体感」や「写真を見ているような実物感」が感じられるという感想がでてきており、「従来の常識とは異なる体験であるため、テレビや映像関連の技術者の間では『この見え方の変化は、科学的な検証が必要』という意見も上がっている」ということらしいのですが、当たり前じゃないですかと思ってしまうのです。
それこそ、いまだに写真の世界でプロやハイエンドのアマチュアの人たちが、「銀塩フィルム」を捨てない理由だからです。「銀塩フィルム」は画素数では比較にならないほど高く、高解像を実現した技術です。「写真を見ているような実物感」という感想そのものが、ようやくデジタルも銀塩フィルムが映し出す世界に限りなく近づいただけのことでしょう。

そこで聞いてみたいことがあります。ではいいカメラ、いいレンズを使って、銀塩フィルムで写真を撮って、誰もがいい写真が撮れるのだろうかということです。

はい、間違いです。普通の人なら、デジタルカメラでバシャバシャ撮っているほうが、いい写真を撮ることができます。素人でも数多くシャッターを切っていくことで、なかには、いいシーンを捉えることもできるからです。それは写真の作品的な価値というよりも、旅にしても、花見にしても、子供の運動会でも、体験してきたコンテンツそのものの魅力があるからです。

つまり、映像の価値は、画質による価値だけではなく、コンテンツそのもの価値によるところが多いのです。日経の記事ではシネコンで3D作品が増えてきたと書いていますが、それとともに興行成績はさっぱりです。3Dは見え方の問題なので、映画そのものが面白くないと映画としての価値はありません。

3Dがメガネを必要とするからダメだっただけではなく、3Dで作品をつくるということ自体が新たな制約条件になってくるので、いいコンテンツをつくるハードルを上げてしまい、いい作品がでてくる確率を下げてしまったのです。

つまり放送番組という枠組みで4Kを考えても、いったいその高画質を生かせる、あるいはその高画質を必要とするコンテンツがどれほどあるのか、コンテンツとしての番組の価値をどれほど上げることができるのかが大きなハードルとして待ち構えています。

想像してみてください。タレントがひな壇に並んでやっている番組が4kになって、さらに面白くなるのでしょうか。製作コストを切り下げている放送局が積極的に機材を買い替えるでしょうか。4Kはコンテンツをつくるハードルをさらに高めます。
そうそう最近会社帰りの車でや野球中継をラジオで聞いていて、ラジオの中継も面白いと感じることがあります。画像を見ていないにもかかわらずです。コンテンツとはそういうものでしょう。
うめめ
うめめ [単行本]
写真の世界では、写真家で木村伊兵衛賞を受賞された梅佳代さんの写真集「うめめ」のアマゾンのレビューで、「人間の本性や間抜けさが色々混ざった微笑ましい写真集」と書かれていましたが、梅佳代さんの写真は高画質とかとは異次元の、情景の切り取り方の面白さが作品価値となっているのです。 はっとするような美しい写真もある、思わず人の温かさを感じてしまう写真もある、コンテンツの価値は多様なのです。

しかし、4Kなり8Kなりの解像度を上げていくことは、ある意味では既存技術の延長線としては必然的な流れでしょう。低価格化すればフルハイビジョンに代替していくことになっていくでしょうが、それで液晶テレビのプレミアム価値になるのかというとそれは期待薄です。最初は飛びつくリッチな人もいるでしょうが、それで成り立つマーケットはしれています。

実際、フルハイビジョンの液晶テレビが登場し、普及していくなかで、液晶テレビの価格はあがるどころか、どんどん低下する一方でした。「銀塩写真」は画質ではデジタルよりもはるかに高い世界を実現していたにもかかわらず、現像や焼付けにコストがかかるために、より手軽に写真を楽しめるデジタルに市場を奪われ、ハイエンドな世界でしか生き残ることができなくなってしまったのです。

4Kによって、生活や産業のなにを変えることができるのか、そこに照準を合わせた時に、新たな技術を生み出すチャンスも生まれてきます。例えば、ポスターに変わるデジタルサイネージであれば、見る人によってインタラクティブに変化するシステムが必然的に求められてきます。医療であれば、検査機器から診断までのトータルな仕組みを開発することで、医療機器システムの高精度化と高付加価値化が実現できます。

もっといろいろあるとは思いますが、解像度を上げ、放送番組の品質を高めることよりも、なにを変えることが社会や生活また産業にとって価値を高め、高解像度化の技術がそれにどうはまっていくのかという発想に切り替えないと、技術が生かせず、結局はコモディティ化がすぐにやってくる部品メーカーとしてのポジションの域をでないようにも感じます。

技術分野は異なりますが、基礎技術ということでは、4Kよりも、インターネットの回線の高速化、さらに大容量化技術のほうが時代が求めていることであり、より大きな果実がまっているように感じてしまいます。NHKも家電メーカーも電波放送という枠組みを超えて、新しい市場創造にむけた果敢なチャレンジをやってもらいたいものです。