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「頭のなかで考える」というのと「頭のなかでしか考えない」というのは違います。いずれも目の間で起こっている現象だけに目を奪われずに、なにかを発見し、見出すためには役立ちます。しかし、「頭のなかでしか考えない」場合は、目の前で起こっている現実、その実態を見失ってしまいかねません。
人は誰しも、日々なにかを解決しようと問題をたてます。「ランチはどこでなにを食べようか」という問題の立て方もあれば、「どうすればもっと豊かになれるか」という問題の立て方もあります。また、ふつうは、なにかをしようと問題を立てる際に、変えることができる現実と、変えることができない現実をわけて人は判断しています。

近くの店でイタリア料理でランチをエンジョイしたいと言っても、近くにイタリア料理店がなければどうしようもありません。あるいは、近くにいいイタリア料理の店があっても、財布の許容範囲を超えた料金だと利用できません。しかし財布の中味は、今すぐには変えられないとしても、やりようによっては増やすことができます。

人が悩み、どうしていいかがわからなくなってしまっているときは、たいていこの「変えることができない現実」と「変えることができる現実」の仕分けがうまくいっていないことが多いものです。

いずれも自分自身がどういう状況や環境に置かれているか、あるいは自分自身がなにができるかなどを無視しては問題を解決する方法は見いだせません。

前置きが長くなりました。内田樹さんが、「国民国家とグローバル資本主義について」というタイトルでブログを書いていらっしゃるのですが、やはり「頭のなかでしか考えない」からなのか、出口なしの迷走をしてらっしゃるように感じます。

国境で成り立っている国民国家と国境を超えたグローバル資本が「利益相反」という前代未聞の状況にあるということから始まっているのですが、確かにそれは間違っていないと思います。だからどちらを立てるのかではなく、その矛盾にどう向き合えばいい問題解決ができるのかが本当の課題のはずです。

そして「ボーダーレスに人・モノ・資本・情報が激しく行き交うさまを人々はうれしげに言祝いでいるが、忘れてはならないのは、カール五世の場合がそうだったように、それらの交易で得られた富はもう国民国家の『国富』ではないということである」と書いておられるのですが、誰も国境を超えて人・モノ・資本・情報が行き交うことを「うれしげに言祝いでいる」わけでもなく、それが目の前にある現実だということです。

どうも内田樹さんは、経済のグローバル化を「変えることができる」現実、コントロールできる現実だと錯覚していらっしゃるように感じてしまいます。だから結局は内田樹さんも現実を嘆くだけで、あまり調子に乗ってグローバル化の流れに乗ると、みんなグローバル企業の陰謀にはまってしまうよと言っているに過ぎません。だからグローバル企業の陰謀には警戒しようという問題解決方法しか生まれてこないのです。

しかしひとつ問題の立て方を変えると出口が見えてきます。いかに資本がグローバル化しても資本を生かすためには投資先が必要です。さらに利益をあげていくためには、新しい価値を生んでくれる人材や施設が必要です。もっといえば消費地も必要です。消費力のあるところにグローバル資本は向かっていきます。

それらを担うのが都市です。堺屋太一さんが「知価革命」と書かれたように「知価」、つまり高度な知識、高度なアイデアや感性に価値が移れば移るほど、人材が集積する都市圏が重要度を増してきます。

そして、グローバル資本を引き寄せた都市は、そこに雇用も生まれ、また人材を吸収し、さらに新たな資本を引き寄せます。だから現代で起こってきているのは都市間競争です。都市が競争力を持てば、その地域に「富」が落ちてきます。さらにその地域の消費や人材を供給する、あるいは都市の産業を支える周辺地域も豊かになってきます。

しかし残念ながら、現実として都市間競争が起こっているにもかからわず、日本は都市として競争力を持っているのは東京圏しか残っていません。その他の大都市圏はどんどん競争力も経済力もが下降しつづけてきて、財政も悪化してきています。

なぜそうなったかは、競争力のある都市機能を他の大都市で築いてこなかったからです。極端に言えば、東京でしかまともに稼げない状態になりつつあり、やがては東京と東京を支えるための地方しか日本では残らなくなってしまいます。

都市を強くすること、都市の競争力を高めることが日本の急務です。また都市の競争力を高めることなしに地方にバラマキを行なっても、そのバラマキを受けた地方にも明日はありません。都市の競争力を再構築することが、内田樹さんが懸念する「グローバル資本」と「国民国家の国富」の矛盾を解決する一つのアプローチだと思います。
 
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