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ダイヤモンド社のサイトで、シリコンバレーで著名なベンチャーキャピタリスト5名がパネリストとしてそれぞれ2つずつトレンドを発表し、互いに賛成・反対の意見を述べた後に会場で賛成・反対票を投じるミーティングの結果が紹介されていました。
そのなかで興味を持ったのは、電気自動車(EV)は今後急速に普及すると発表したパネリストに、他のパネリストが全員反対で、参加者の投票も賛成35%、反対65%と反対が上回ったことです。

なにもシリコンバレーで行われたミーティングの会場投票で時代の流れが決まるわけではありませんが、冷静な判断だと感じます。おそらく電気自動車(EV)の性能が今後飛躍的に向上し、また価格も下がって普及していくと考える人は、おそらくこれまでのPCやデジタル製品と重ねて考えている人が多いのでしょうが、結構高いハードルがあるように感じます。

最大のネックになるのが電池です。半導体の世界は、飛躍的な速度で発展するとしたムーアの法則が働いたのですが、なにもかもが半導体と同じではありません。電池技術でなにか飛躍的なイノベーションが起こらない限り、「高い」「重い」「走行距離が短い」「充電に時間がかかる」といった問題をクリアできないのです。燃料電池も登場して久しいのですが、いまだに実験のレベルから一歩も進んでいないのが現実です。

電池は基礎技術での大きな発見があったわけでもなく、ひたすら改善によって効率を上げるだけなので、性能は徐々にしか上がらないし、コストも競争によって徐々に下がる程度です。

そうなってくるといかに充電のスタンドを整備するか、また充電時間を短縮するかに焦点があたってきますが、いまは急速充電でも40分かかってしまいます。日本発のアイデアでは高周波電流を道路から車のタイヤを通して送り、車の移動中に直接充電するというのもあるようですが、こちらのほうも時間を要します。だから、シリコンバレーのミーティングでも、結局はハイブリッドが続くだろうという当たり前のところに落ち着いています。そのハイブリッドでさえ、米国では日本と違ってガソリン価格が安いので思うように普及しません。

こういったジレンマを解決するには、発想を変えることじゃないかと感じます。走行距離も短い、小さい、しかし徹底的に安い電気自動車です。昔、高度な技術であった液晶が、液晶としてはローテクの電卓の表示パネルなどで普及し、それが技術の発展を生んだように、いまでも売れるニッチな市場を広げることではないでしょうか。地方のお年寄りのための自動車、買い物用の二台目の自動車、狭い地域での配達用の自動車ならありえるのじゃないかと考えると電気自動車(EV)も面白くなってきます。
三菱自動車の宮崎あおいのでてくるコマーシャルで「電気自動車のひと、増えてます」の発想をもっと徹底するという考え方です。
それより自動車産業で気になるのは、ドイツのワーゲンの車載情報機器や運転支援システムを“モジュール”として部品化したことのほうです。これまでは車のクラス別にモジュールで部品の共通化をはかってきたことから、さらに、車のクラスを超えたものに進化させようとしているようです。計画では、自動車部品の50%をモジュール化できると豪語しているとか。
ESEC2012基調講演リポート:VWはモジュール化だけじゃない、車載システムの“民主化”にも取り組む (1/2) - @IT MONOist : 

つまり、それは開発の速度を早めたり、対象市場別の車種開発を容易にすることを意味しています。車種別に部品を設計し製造していては、遅れをとってしまいかねないのです。かつては製造の模範生ともいわれたトヨタを筆頭とする日本の自動車産業に対する競争優位になってくるということです。
そう見ると、自動車産業のほんとうの競争の焦点は、電気自動車(EV)とは違うところにあるのでしょう。
はたして日本の自動車産業はワーゲンを超える開発や製造のイノベーションを起こすことができるのでしょうか。気になるところです。