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経済産業省の「製造基盤白書」は「ものづくり白書」ともいわれますが、よく読めば、現在の日本の「ものづくり」のあり方がいかに世界で通用しなくなってきているかの解説書になっているのはまったくもって皮肉な話です。
そのなかで、成長する新興国市場で日本が競争力をもつためには、「誰のためのものづくりか」の視点で、マーケットにあったビジネスモデル構築が必要だという問題提起もありました。しかし、それよりも問われるべき、あるいは考えるべきなのは「何のためのものづくりか」という原点ではないかと感じます。なぜなら、「ものづくり」もなにかの価値を生み出すためのひとつの手段なのですから。
ビジネスの上流と下流の付加価値があがり、製造という中流の付加価値は下がり続ける「スマイルカーブ」現象は、もうずいぶん以前から指摘されつづけてきたのですが、この「スマイルカーブ」でいうプロセスの見方も、なにか「ものづくり」の立場にたったものだと感じます。

経産省がおそらく製造業を対象とした調査の結果だと思うのですが、【付加価値が高い・低いと考えられる工程】で見ても、「組立」の付加価値の低下はすさまじいものを感じます。

工程
 デジタル化・モジュール化の進展によって、一定の品質のものづくりが容易になり、単なるものづくりから得られる付加価値が低下し、商品設計・付随サービスが重要な位置を占めるようになった。今後は、「企画・マーケティング」、「研究開発」、「設計」の付加価値が高くなり、「組立」の付加価値が一層低下すると認識されている。例えば、iPhone4でも付加価値のほとんどをアップルが獲得している。

スマイルカーブについては、伊藤元重教授が分かりやすく解説されていますが、そのなかで、付加価値を高める3つの要素は、「ビジネスモデル」「製品」「ブランド」だという米国の著名なコンサルタントであるエイドリアン・スライウォッキーの「黄金の三角形」の考え方も紹介されています。

この白書ではなぜアップルがiPhoneからえらえる利益のほぼ半分を独り占めできているかの説明がないのですが、この「黄金の三角形」で考えるとよくわかります。
つまり利益を生み出す「ビジネスモデル」や「ブランド」を持たなければ、いくら部品をアップルに買ってもらっても、それで得られる利益は小さく、大きな市場のなかの小さな小魚でしかなくなってしまうことを意味しています。

「ものづくり」という言葉は人によってなにをイメージするかは異なるとしても、おそらく、広くとらえている人でも、この図で言う「企画・マーケティング」や「研究開発」「アフターサービス」ぐらいなのではないかと思います。ビジネスモデルまで含めれば、もう「ものづくり」という言葉からはかなり遠ざかってしまいます。

製造工程そのものは、よほど設備を自前で開発しブラックボックス化し、技術流出を防止しないかぎり、途上国に抜かれていくことは間違いないことです。かつてソニーがサムスンに液晶パネル生産を委託したときに、もっとも重要な画像処理技術は流出しないと高を括っていたようですが、実際にはそれからサムスンの進撃が始まったことを考えると流出したとしか考えられません。それからはあっというまに技術でも追い越される結果となりました。
なぜ追いつき、追い抜かれるかですが、それは人件費だけの問題ではなく、製造のデジタル化やモジュール化が進展したために、技能が効く部分が狭められ、最新設備を導入したところが優位にたつようになるからです。いま中国などの新興国にはどんどん最新設備がはいっていっています。造船業はかつてそれで韓国に敗れた歴史がありました。同じ事です。

「ものづくり」のなかでも、「企画・マーケティング」「研究開発」といった「なにをつくればいいのか」を考え、発見することに重心が移ってきます。それにブランドやビジネスモデルとなると、やはり「何のためにつくるのか」の原点から考えること、また「何が消費者や顧客にとってなにが価値になるのか」から発想し、また視野を広げないとなかなか正解にはたどり着けないのではないでしょうか。