このところ内田樹先生が、ずいぶんTPP反対に熱心です。その内田先生は現場の人の話から学ぶことが多いそうです。それはいいことで現場の話を聞けば、ほんとうのことがわかることも多いのも事実です。
しかし、聞いたことを理解するためには、ある程度の知識を求められることもありますが、今回はお聞きになった話と、内田先生の思い込みの共鳴によって、壮大な資本主義批判に広げておられるので、その想像力は妄想の域にまで達する勢いであり、恐れ入ります。
さよならアメリカ、さよなら中国 (内田樹の研究室) :
問題は、この下りです。結婚式でとなっていますが、披露宴でだと思いますが、席に自動車メーカーの取締役の方が隣となり、その会話を紹介されています。
さっそく「TPP加盟でアメリカ市場における日本車のシェアは上がるのでしょうか?」というお話から入る。
「多少は上がるでしょう」というのがお答えであった。
アメリカの消費者は同程度のクオリティであれば、ブランドというものにほとんど配慮しないからだそうである。
トヨタが3200ドルでヒュンダイが3000ドルなら、大半の消費者は迷わずヒュンダイを買う。
一円でも安ければそちらを買う、というのは、私の定義によれば「未成熟な消費者」ということになる。
アメリカの消費者がブランドに配慮しない?
えっ?
実に驚くべき話です。ブランドに関する常識も、ブランド価値を日本以上に重視する経営学の常識も一瞬にして覆され、吹き飛んでしまうような話です。
内田先生がもうひとつ、つっこんで質問すべきだったのは、ヒュンダイはブランドとして人気が高くなってきたのか、あるいはブランドが効かないということなら、なぜ3200ドルと3000ドルの差があるのかの矛盾についてでした。
そもそも内田先生にとってはヒュンダイは、ブランド力がまったくない価格だけで勝負している企業だという思い込みがあるのでしょう。たしかに何年か前まではそのとおりでした。
かつてヒュンダイが北米市場に参入したときには、その価格戦略がどの程度効くのかに注目が集まりましたが、ブランド力の不足、クォリティへの信頼のなさであまり売れなかったのが事実です。アメリカ市場でヒュンダイを購入するのはのはごく限られた層だけでした。
しかしヒュンダイの車のクオリティが日本車に追いつき始めていることは、その自動車会社の取締役の方の会話からうかがえます。しかも一円でも安ければではなく、その取締役の方のお話でも、トヨタとヒュンダイでは200ドルの壁が存在しているのです。
では、ヒュンダイはいまでもブランド力がないのでしょうか。たとえばブランド力の評価を行っているいくつかの企業がありますが、そのなかのひとつのインターブランド社によるブランド価値のランキングを見ると、さすがにトヨタは第11位で第12位のメルセデス・ベンツと競い合っていますが、2009年まではトヨタは第8位でトップ10にはいっていました。それがリコール問題などの影響もあったのでしょう。インターブランドの尺度によるブランドの評価額も年々低下してきています。
一方のヒュンダイはどうでしょうか。2011年は前年の65位から61位にランクアップさせています。ちなみに59位がアウディ、60位がアディダスですから立派なものです。しかもこちらはブランド価値を年々あげてきています。ちなみにホンダは前年の20位からひとつランクアップし19位で、日産は90位でした。
どのような基準でブランドが評価するかは日本とアメリカでは異なるでしょうが、ブランド力で格差が生まれると、消費者は少々高くとも信頼するあるいは好きなブランドを買うことはアメリカの市場でも同じです。しかし価格差が大きすぎると品質さえ信頼できれば安い方が買われるのは日本も同じです。その境界線がブランドによって生まれるプレミアム価格と言います。
「トヨタが3200ドルでヒュンダイが3000ドルなら、大半の消費者は迷わずヒュンダイを買う」ことが事実なら、トヨタはヒュンダイと200ドルのプレミアム価格差のブランド力だということで、それぐらいヒュンダイが接近したきたのです。
ちなみにサムスンは17位で、キャノン33位、ソニー35位で、ブランド力で負けています。それが現実です。現場の人のお話を聞かれるのはいいことですが、思い込みがあると、大切な点を見逃したり、聞きちがいをしてしまうこともあるものです。それでそのまま資本主義まで論じてしまうというのはちょっと無理があるかと感じます。
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