2009年11月24日

競争さえ促進すれば経済は成長するのだろうか

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池田信夫さんのブログで、「成長戦略とは競争戦略である」というコラムがあありました。思わず釣られて読んでしまいましたが、そこまで思い切って言い切るのは気持ち良いかも知れませんが、果たして本当にそうでしょうか。ふっと疑問に感じたことを書きます。
「成長戦略とは競争戦略である」(池田信夫blog part2)

また、池田さんに限らず、政府ができるのは規制緩和や金融政策ぐらいであって、市場に関与すべきでないという考え方をする人もいらっしゃいますが、そちらもどうなのかと思ってしまいます。

確かに、これまでの政府のやってきた保護主義的な日の丸プロジェクトが成果をあげられなかったことも事実でしょう。日本の農業政策がその典型例だと思いますが、新規参入が阻まれ、競争が生まれず、結果として、農業の生産性が向上するどころか、農業の担い手も不足する事態となってきました。産業の発展には競争は極めて重要なことはいうまでもありません。切磋琢磨の競争に揉まれるなかで、知恵も生まれ、また企業の活力も引き出されてきます。

これまでの政策の多くが、「なにか」を目指す際に、「いかに」取り組むかを間違ってしまった、政府が、というか一部の政治家と官僚が関与し、さらに利権が生まれ、自由な競争を取り入れなかった、むしろ実質的には規制してきたことによる失敗が多かったことも事実でしょう。つまり戦略が間違っていた、あるいは甘かったということでしょう。企業で言えば、どの市場に照準を合わせるか、その市場で、どのようなポジショニングの獲得を目指すか、さらに実際にはどのような研究投資を行い、またビジネスのしくみを組み立てるかが合わさって成長戦略ですね。

競争を促す手段として規制緩和も重要であることも間違いないことです。その点は納得できるのですが、しかし、では競争していれば、企業は、あるいは激しく競争が行われている市場は成長していくのかというと、現実の市場では、そうとは限りません。身近な例では、たとえば、ビール業界は、競争が激しいカテゴリーです。ドライ戦争があり、発泡酒、さらには第三のビールと争点を変えながら、競争が繰り広げられてきました。それで変わったのは何か。それはアサヒとキリンのシェアだけで、市場はむしろ縮小してきました。それが現実です。

それこそ、日本企業は、エレクトロニクスの分野のように、過当競争だといわれるぐらい世界市場で競争を繰り広げてきましたが、では、生産性のバロメーターとしての営業利益率が高まったかというと、そうではありません。営業利益率では、サムスンにも差をつけられてしまっています。
競争さえすれば、生産性が高まるのかというと、そうではなく、どのように競争するのかによっても差が出てくるということです。同じ土俵で競争しあっていては、同質化競争といいますが、それはお互いをつぶし合うだけの結果となります。他社とは大きく違うポジショニングやアプローチを変え成功した企業は利益率も高く、最高の競争戦略は競争しないことだと言われるゆえんです。競争のしかたも、いろいろあるということです。

成長戦略にとって、競争を促すこと、競争を取り込むことは極めて重要だけれど、競争さえ促進すれば、産業が成長する、あるいは生産性が高まるというほど単純なものでもありません。

規制緩和が日本の成長戦略にとって大きな鍵となることにも同意します。さらに言えば、規制緩和は、競争だけの問題だけではないからです。
規制緩和などによって、新たなビジネスチャンスを創り出したり、中央集権の非効率を是正し、生産性を高める可能性も生まれてきます。たとえばわかりやすい例として、それが効果的かどうかは別として、カジノの導入を地方に認めれば、そこにレジャー拠点が生まれ、観光産業が活性化する可能性が広がってきます。
しかし、政府が特定の産業に、成長分野として照準を定め、政府がなんらかの施策を打つことがまったく効果がない、意味がない、規制緩和による競争促進しかないといわれると、ほんとうにそうなのだろうかと疑問に感じてしまいます。

1980年代は、日本とドイツが世界市場を席巻し、アメリカや旧共産圏国などの産業に大きな打撃をあたえました。だから、その頃は、アメリカのさまざまな都市で、失業したホームレスの人たちが教会で施される食事に列をなす姿が報道されていたものです。そのアメリカが1990年代に、ITや金融を成長分野としてターゲティングを行い、積極的な育成政策を行ってきました。今でも、IT関連の研究開発プロジェクトに20億ドル以上の国家予算が割り当てられています。それが無意味だったのでしょうか。要はやり方次第だということでしょう。

思い出したことがあります。ある仕事をしていたときに、ロスで開催された音楽配信の協議会に研究目的で参加する機会をつくっていただいたことがありました。
その協議会のパーティで、そこに参加していたベンチャー企業の人たちに、なぜ収入がほとんどないのに、事業を続けることができるのかと尋ねたことがあります。
それは州政府が雇用促進を目的として補助金がでたので資金はある、いまはベンチャーキャピタルが資金を援助してくれているからやっていけると何人かが答えていました。州政府がその分野の起業を促進するための投資を行っていたということです。日本との環境の違いを感じてしまいました。日本でも、政府や自治体が資金を出してくれる事業がありますが、残念ながら、過疎対策事業であったり、農村の活性化事業だったりして、これでは票にはなっても、成長戦略になりません。

さらにアメリカの場合、日本にも外交圧力を加え、日本の市場開放を要求し続けて、金融などの日本市場への参入を促してきています。これも政府の介入です。輸出の促進という点でも政府が行うべきことはあります。日本の外務省の営業力査定なんかやって見ても面白いですね。

政府が、成長分野を定めることは無意味ではないと思います。しかし、現実にはその分野を「いかに」育てるのかという戦略のありかたがのほうが重要です。もちろんそこには、参入と競争を取り組むために規制緩和を行うことも、あらたな規制によって産業の転換をはかることも必要になってくることは自明の理でしょう。ハイブリッドや電気自動車を普及したければ、ガソリン車を規制するか、ハイブリッドや電気自動車に有利な条件整備を行わないと、そちらに市場を誘導することがなければ、コストの高くつくハイブリッド車や電気自動車は売れません。

成長分野に企業活動を誘導し、そこで公正な競争が行われる基準としての法整備を行うのも政府の役割です。排出権取引なども、法整備なしに、民間だけがかってにやれるというものではありません。
さらに投資効果がすぐには見えてこない基礎技術分野などは、民間投資では限界がでてきます。当然、政府が投資を行うということになりますが、それも、目標設定や、開発戦略、また進捗をしっかり吟味しなければ、無駄な投資に終わってしまいますね。

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1. 根拠なき強気  [ 池田信夫 blog ]   2009年11月25日 00:24
大西宏氏からコメントをいただいたが、「競争さえ促進すれば経済は成長するのだろうか」という問いへの答は、もちろんNOである。競争を促進しなければ成長しないが、その裏(競争を促鮮.

この記事へのコメント

14. Posted by 大西宏   2009年11月26日 13:58
> ビール業界って競争が激しいんですかね?
> 新規参入が極めて困難な業界だと思うんですが。

地ビールがあったり、海外のビールも輸入されているので、実際には参入は可能だと思います。しかし、実際には参入が困難です。参入の障壁になっているのは、大手のメーカーの寡占度が高さでしょう。参入しても一般流通に商品を流れないというのが現実だと思います。
世界的に見ればビール業界は儲からないので、どんどん再編・統合の流れにありますが、やがて日本でもそんな流れが押し寄せてくるかもしれません
13. Posted by ココ   2009年11月26日 00:35
ビール業界って競争が激しいんですかね?
新規参入が極めて困難な業界だと思うんですが。

テレビ、新聞業界と同じで保護された中で
競争してる特殊な業界というイメージしかないですが、、
12. Posted by sincosintan   2009年11月25日 16:38
「競争さえすれば成長するわけではない」のは当たりまえです。そんなの命題にすらなっていません。「どう競争するかが重要」というのも当然です。どんな中小企業でも毎日やっていることです。むしろ、そこから議論を始める感覚がちょっとズレているように感じます。「どう競争するか」「勝ち抜くか」「何に資源投入するか」なんて他人や政府に教えてもらうことじゃなくて、「自分の頭で考え抜いて、汗かいて、泥んこになってやってごらんよ。あんたの会社のことなんて誰も考えてくれないよ」というのが出発点ではないですか。この20年ほど銀行救済や産業再生機構のような官製ファンドやJAL問題などで競争原則に反する事例が多すぎて「政府ボケ」している人が多いように感じます。ビールの例も需要があれば拡大するし無ければ潰れるだけ。代わるものがきっと出てくるから大丈夫です。
11. Posted by foreach_blog_in_blogs   2009年11月25日 11:36
業界トップ・トヨタの従業員より、トップになれない銀行に勤めている人の方が、たくさん給料をもらっていますね。
本当に、10番の方のおっしゃる通りだと思います。
悲しい現実ですね。
10. Posted by 通りすがり   2009年11月25日 03:40
競争を煽る側で、競争の渦中に身を置くものはいないのです。

競争に共感し、競争に身を置くものは所詮捨て駒だと言うことにも気がつかない。

歴史上、競争するものの繁栄が達成されたことはありません。競争を見るものが繁栄を謳歌するのです。

9. Posted by eco_and_sport   2009年11月25日 01:24
5 内容に共感です。良い論考だと思いました。

大手によるビール競争の例示は、"競争の舵取り"を間違えたということの例示だと思います。

ビール大手で比較すれば、サントリーの戦略が良かった、ということではないでしょうか。

そのサントリーも不採算だったビール事業がようやく一定の目的を達成し、仕切り直しということなのではないでしょうか。

文化を創造する取り組みをしていたか、否か。
それはビール事業に限らず、車でも家電でも見直す点は多いのではないでしょうか。
8. Posted by 一会社員   2009年11月25日 00:04
上記でおっしゃるエレクトロニクスに15年勤務のサラリーマンです。

>しかし、では競争していれば、企業は、あるいは激しく競争が行われている市場は成長していくのかというと、現実の市場では、そうとは限りません。
>身近な例では、、、、

この論理展開にはかなり疑問を感じます。激しく競争している理由は、そもそも成長がない(あるいは成長の伸びしろの少ない)市場だからかもしれません。

つまり、広がらない市場の陣地を取り合うだけの競争なのか、それとも、広がっていく市場フロンティアを獲得する競争なのか、議論がごっちゃになっているような印象を受けます。

また「競争を繰り広げる」ことを「生産性の向上=営業利益率」にもっていく話の展開も、かなり危ういと思います。

経済学における完全競争モデルは利潤がゼロの状態である、ということを想起するまでもなく、常に同じ土俵で(過当)競争を繰り広げているからこそ、営業利益率が低いままなのだ、というのが私の実感としてあります。

規制産業であれば、低い営業利益(あるいは損失)を補填してくれる政府からのメカニズムがあるのでしょう。

つまり、問題にすべきは、プレーヤーが多すぎる(過当)であること、にもかかわらず、多くの産業セクターでそういう多すぎるプレーヤーが何らかの規制によって庇護されていることではないのでしょうか?

それがゾンビ企業、規制に集(たか)る集団を生み出す温床となる。すなわち、参入退出が容易ではなく、既得権益者が得をする、という構図になっていることこそが問題なのではないかと思います。成長する市場にせよ、しない市場にせよ、競争を阻害する環境では同じことが起こると思います。

影響力ある筆者の、さらなる論考を期待しております。

7. Posted by なんだかなー   2009年11月24日 23:47
1 有り無しで言えば無しですね。
ツイッターでつぶやく程度に留めて欲しかった。


>>それはアサヒとキリンのシェアだけで、市場はむしろ縮小してきました。それが現実です。

うーん。競争しなかったらマーケットは拡大したとでも?
論点が違う気がします。


>>日本企業は、エレクトロニクスの分野のように、過当競争だといわれるぐらい世界市場で競争を繰り広げてきました

そうですか?
「総合」にこだわって、戦略的に経営(競争)できずに海外との競争に負けただけでは?


>>成長分野に企業活動を誘導し、

そんな事だれにも分かりません。
分かるならファンドマネージャーにでもなればよいのでは?
6. Posted by 死にすぎ   2009年11月24日 21:29
2 こんばんは

ここでいう規制って利権のことでしょっ? でしょっ?

この記事を読んでも未来が来るっていう気がしない
未来が狂っていく気はするけど

政府が本当にやるべき仕事をせずに、いったい何やってんだかなーって感じです
そもそも「政府とは何か?必要なものかどうか?」っていうところから話し出すとキリがないから、
この辺で失礼します
5. Posted by haruomi2   2009年11月24日 21:05
当ブログ記事の主旨にのっとってコメントするならば、「競争を促進する無政策(規制緩和)」もあれば、「競争を促進する政策」もある、というのが正解でしょうね。

でも当ブログ記事があげている事例はみんな的外れだと思いますね。ビール業界だって、ビールと発泡酒を分ける不可解な分類による課税が無ければ、もっと自由な製品開発が行われて市場が繁栄しただろうって事は、誰でも想像がつきます。巨視的に見れば、競争を妨げる規制が少なければ金と人の配分の最適化が進みやすくなるのは真実です。
ビール業界の場合、ビールよりも効率的な発泡酒の市場に金と人が移動しただけのことです。
そうじゃなくても「競争が激しければ市場が拡大するわけではない」ことは、池田ブログの記事への反例には全然なっていません。


4. Posted by haruomi2   2009年11月24日 20:51
>彼が前提とする完全な市場や人間

どうしてこう曲解を元に反論しようとする人が多いのでしょうね。池田さんはこんなことは言ってませんよ
それどころか経済学がモデル化の前提にする「経済的モナド」としての人間はしばしば現実とは異なる、というのが最近の彼が書いていることです。

>今ある現実を踏まえてどこをどのようにしたら良いのか

過去ログを参照してみたらどうでしょうか。「いますぐできる」現状より多少はましな政策提言などもされてますよ。

教授の肩書きを持ってるにしては少々ちっぽけなニヒリズムに染まっているとは思いますが(でもそんな「池田節」がアクセスを増やすゆえんか)、それでも批判する以上言っていることは正確に読み取るべきでしょう
3. Posted by ルル   2009年11月24日 20:38
池田信夫さんの主張は、理論としては正しいことを述べられていらっしゃるのかもしれませんが、それを現実に当てはめて考えた場合、実施困難なことが多いように思います

つまり彼が前提とする完全な市場や人間なんていうものは存在しないわけですし、単に一つの事象を影と光を駆使していくら論理的に述べても現実は、ますます遠いところに行ってしまうということかもしれません。

せめて論理的な観点から批判するだけではなく、今ある現実を踏まえてどこをどのようにしたら良いのか不完全でも生きている市場や人間に対し血の通ったかたちで具体的に指摘をしないと影と光を使って哲学を鼻ではくような話になってしまうように感じてなりません。
2. Posted by kiwiineko   2009年11月24日 18:34
3 「成長分野に企業活動を誘導」することは、ここ数十年、少なくとも日本政府にはできなかったことのように思えます。今から急にそうした能力が身に付くとは考えにくく、ないものねだりのような気がします。
1. Posted by 猪口冷斗   2009年11月24日 17:31
 池田信夫さんに対する反論の位置づけというのなら、それは間違っていますね。
 そもそも「競争さえ促進すれば経済は成長する」なんて何方も主張しておりません。
 成長には競争の促進が必要だという命題(これは正しい)から、なぜその様に結論づけられるのか不思議でなりません。

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