ネットで知り合った方から「のまネコ」問題はどう考えるのか、ブログで意見を書いてよというリクエストをメールでいただきました。

結論から言います。「のまネコ」騒動は、実務家の直感からいって法的には対処が難しく、ひとえに avex の企業倫理、企業としての品格が問われている問題だと思いますが、avex 一社に限らず、商業主義の匂いが強く、文化を大切にするという香りがほとんどしない日本の音楽業界にそういったことを期待するのは難しく、社会的な圧力でしか解決しないというのが見解です。

ご存知のない方に、簡単に説明します。おそらく、とくに2ちゃんねらーでなくとも、アスキー文字で描かれたネコをどこかでご覧になった人は多いと思います。基本形はご存じだと思いますので、できるだけバリエーションを感じる「ギコ」「モナー」「モララー」などをご覧下さい。多くの人びとの心と結びつき、どんどん育ってきたキャラクターです。

このキャラクターは、2ちゃんねるを核としたネットのコミュニティによって自然発生的に広がり共有されてきました。ネットのコミュニティが生み出した文化であり、特定の個人のものではないコミュニティ共有の資産、つまりコモンズです。こういった文化の法的な取り扱いはむずかしいんですよね。
騒動は、AVEXが『恋のマイアヒ〜』でこのアスキーアートのモナーと類似した「のまネコ」をPRに使い、きっとそこまでは良かったとしても、さらにキャラクターとして商品化したことから始まりました。
「のまネコ」は、法的判断は別として、あきらかにこのコモンズといえるアスキー・アートから派生したキャラクターですから、このアスキーアートを愛する多くの人たちが反発し、AVEXに対する抗議のサイト抗議のブログ(この超有名サイトへのトラックバックを参照して下さい)、掲示板ネットが騒然となってきているということです。以下は、その抗議に対してのavexの見解です。

「のまネコ」は、「のまネコ」の著作を管理する有限会社ゼンとエイベックスネットワーク株式会社が商品化契約を締結しております。
「のまネコ」は、インターネット掲示板において親しまれてきた「モナー」等のアスキーアートにインスパイヤされて映像化され、当社とエイベックスネットワーク株式会社が今回の商品化にあたって新たなオリジナリティを加えてキャラクター化したものですが、皆様において「モナー」等の既存のアスキーアート・キャラクターを使用されることを何ら制限するものではございません。何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。

「モナー」は参考にはさせてもらったけれど、「モナー」をあんたらが使うことは駄目だとは言ってないから、おとなしくしといてよということです。法務的な回答ですが、ちょっと問題が違うだろう、俺たちのキャラで勝手に儲けるのはやめろというのがみなさんの気持ちであり、ずいぶんギャップがありますね。

avex 側も分かっているのは、この「のまネコ」は、慎重に「インスパイヤ」という言葉を使っていますが、平たく言えば、モチーフに使ったと認めており、専門家の判断を待つとしても、おそらく著作権などの法的な効力はほとんどなく、拘束力をもっていないということです。しかし、抗議する側からすれば、それでは納得できる話でなく、怒りは収まりません。2ちゃんねるのひろゆき氏の発言とレスのこの部分がみなさんが望んでいる内容とその可能性を端的にまとめられています。

・グッズを差し止める  <要訴訟
・謝罪させる      <謝罪内容次第?
・お金をもらう      <これはなさそう。寄付にする?
・独占利用でないことを表明させる <これは当然
・オリジナルでないことを表明させる <これも当然 ・放置 <反対多数
・とりあえず嫌がらせ <既に始まってる?

おそらく、訴訟してグッズを差し止めるのというのは困難だという気がします。謝罪とか、金銭的な解決も難しいでしょう。グッズをやめるかどうかは、抗議の渦がどこまで広がり、それによってどれだけavex が企業イメージを損ねる、あるいはビジネスに差し支えると感じるかに関わっているのでしょう。
あとは、そういった損得勘定を超えて、作者の権利を守る立場、文化を守る立場にある企業そしての倫理感覚があるかどうかですが、結論で言ったようにちょっと疑問です。
avex に限らず日本の音楽業界に倫理というのが似合うかどうか、そういった倫理や理念で経営が動くような体質なのかどうかです。

思い出したふたつの事件があります。体質の問題ですが、公共事業で生きてきたある会社がクレームを出したユーザーに恐喝まがいの対応をしてその録音ファイルがネットに流れた事件がありましたが、消費財を扱う普通の企業の人たちには信じられないクレーム対応でした。体質が生んだ事件だたっと思います。業界は違えども、音楽業界の体質も特殊なものかもしれません。
もうひとつ、思い出してたのが、リキッド・オーディオ・ジャパンという会社にまつわる事件です。発砲事件や暴力事件を引き起こし、また多くの株主に損失を与えましたが、今回の問題とは性質が違うとはいえ、音楽業界にはそういった暗い部分もあるということを認識しておいたほうがいいと思います。音楽の世界は興業も含め、さまざまな複雑な利権がからんでおり闇の世界と手を握りながら生きてきた業界だということです。闇の世界と手が切れない政治の世界に近いかも知れません。

起きてしまったことはしかたないとしても、今後についての根本的な対策としては栗原潔のテクノロジー時評Ver2さんはこうご指摘です。

個人的意見ですが、2ちゃんねるキャラも、それを使った商品売ったりしてるのですから、商標登録しておいた方がよいと思います。商標権や特許権などの権利を取得するのは、権利を独占するためだけにするわけではありません。商標権とっても他者に自由に使わせることは可能です。そして、ルール違反をした者に対しては抑止力を行使できるわけです。
付け加えれば、法的に権利を主張する団体をつくるか、ひろゆきさんの会社が商標権や著作権を主張できるようにしておくことだと思います。

ちょっと言い方は悪いかも知れませんが、いかに盗人たけだけしいと思われることでも法的な根拠がなければそれを制限できないわけで、あとはみんなに盗人だと思われて、これはまずいというところまで追いつめるしかないのですが、どこまで追いつめることができるかでネット文化の今後が試されているような気がします。
またavex さんには、こういったネットの文化も大切にして欲しいし、音楽配信もいよいよ本格的に始まり、音楽会社もこういったネット文化への理解がないと今後のネット社会の中での市民権が得られないと思うので、この問題をとりあげさせていただきました。

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