東京を襲った豪雨による河川の氾濫から始まった台風14号の被害は、九州や四国で、多くの地域の道路や住宅が浸水しただけでなく、土石流によって家屋が失われたり、道路の決壊が起こり、また死者・行方不明の方々が25名にも達した爪痕を残し、さらに北海道再上陸の恐れがあるという予報です。被災された皆さまには心からお見舞いを申し上げます。
さて、9月11日の投票日まで残りわずかになってきましたが、この天災のうえに、さらにテロが起こらなければと祈るばかりです。それはさておき、被災者の皆さまの気持ちにはそぐわない話題でしょうが、この台風は選挙戦にも大きな影響がでてくるように思います。
本来なら小泉さんは9月4日を投票日にしたかったのですが、公明党の反対で9月11日と1週間伸びてしまったことはご存じだと思います。伸びた1週間に、どういうドラマや変化、また出来事が生み出されてくるのでしょうか。そのタイムラグを埋めるかのように台風はやってきました。

今から思えば、いかに選挙の準備が十分でなくとも、解散から時間を空けずに決着をつけるという小泉さんの作戦のほうがきっと戦い方としてはすぐれていたように思います。
小泉さんは、喧嘩に強いのです。喧嘩の仕方をよく心得ています。決してワイズ(聡明)なタイプだとは思えませんが、ずばぬけてクレバー(狡猾)なのです。
また、パーフォーマンスがお得意で、情緒や気分で反応する人たちを捉えるのが上手です。だから、難しいことをいわずに、じっちゃんばっちゃん、子供にもわかる紙芝居まで作成して郵政民営化を説明したり、選挙も「民営化に賛成か反対かを国民に問う選挙」「官から民へ」「公務員にできて民間ではできないのか」と争点を一点に絞り煽っていきました。
郵便局もコンビニをすればもっと便利になり、しかも利益も上がるという、ビジネスを知らない小学生並みのあほくさい話にも、なんとなく納得してしまう人たちもいます。しかし、コンビニの競争は激化しており、そんななまやさしいビジネスではなくなっていることなんて、じっちゃんばっちゃんには分かりません。
とんでもなく立地のよい各都道府県の中央郵便局の資産の活用など、もっと現実的で信憑性のあるビジネスプランも描けるでしょうが、話が難しくなります。それに、じっちゃんばっちゃんには分かってもらえないでしょう。正しいことを言えば言うほど「理」が勝ってしまって、人びとの「情」に訴える効果が薄れてしまいます。嘘でもわかりやすいのが良く、くどくど理屈を並べると、せっかく紙芝居で描いた『改革』の夢から人びとを醒ましてしまう結果になりかねません。

噂の「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略」(PDF資料)とかいうのが、R30::マーケティング社会時評さんのところでリンクが張ってありましたが、この作戦は、構造改革賛成でもIQの高い連中は批判的なので、じっちゃんばっちゃんと子供におばちゃんも加えた人たちから郵政民営化の合意を得ようというものです。そういう意図もあって武部さんも紙芝居で説明したのだと思います。しかし実際には郵政民営化では、なかなか世論が盛り上がりませんでした。
ところが思わぬ出来事が起こりました。民主党が郵政民営化反対という失敗をやって自滅していたところに、さらに郵政民営化に反対する人たちがでてきてくれたのです。お陰で、「改革」か「守旧」かという構図にはからずも持ち込めたのです。。
民営化反対論の人たちを切って、この構図を鮮明にすることで、あれだけ関心の薄かった郵政民営化に人びとの関心を引き寄せ支持を広げるという図式ができました。じっちゃんばっちゃん、またおばちゃんだけでなく、社会保険庁はじめとした公務員の相次ぐ不祥事への怒り、時代の先行きの鬱屈とした行き詰まり感をも吸収でき都市部の支持も広げることができました。
まさに小泉さんは『改革』という水戸黄門の正義の印籠をかざしたのです。だからこれまでなら民主党に流れてきた層までも取り込み、本来なら民主党が圧勝してもおかしくない時代の流れを逆転したのです。おそらく、民主党が郵政民営化反対と言った時点で、小泉さんは勝ったと確信し、反対派との対決を考えたのだと思います。

これまで小泉さんは支持率が下がっても自力のパーフォーマンスで切り抜けてきたのですが、今回は相手が自滅してくれました。もし民主党が民営化の対案を出していれば、こうはいかなかったでしょう。だから小泉さんが岡田さんに勝ち誇ったように「対案をだせばよかった」と幾度も繰り返すのです。

今回の小泉さんにとっての敵は「郵政民営化反対派」でもなく「民主党」でもありません。実は『時間』ではないかと思っています。劇場型の作戦は、いつまでも持ちません。時間が経つにつれ、色褪せて見え、飽きられてきます。劇場型で先行して逃げ切りという風に小泉さんは持って行きたいところでしょうが選挙まで日数がありすぎました。
マスコミも、最初は刺客や郵政民営化の賛否の話題で持ちましたが、いつまでもそれだけで持つわけがありません。当然時間が経つと共に他の課題にも焦点が当たるようになってきましたし、また月刊『現代』やいくつかの週刊誌のように小泉批判一色の記事、またゴシップを書き立てるものがでてきました。裏になにかがあるのかと疑うような反小泉キャンペーンが始まっています。

郵政民営化は賛成、しかし、猪瀬さんの孤軍奮闘の闘いでしかなくなってしまった道路公団民営化に疑問を感じたり、また年金問題で小泉さんや自民党、公明党に不信感を持った人は決して少なくありません。小泉さんの誠意の感じない、場当たり的な発言に嫌気をさし、生理的に受け付けないという人たちも多いのですが、小泉政権への不信感を吸収する政党がなく、小泉支持の広がりの前に、なんとなく深く潜んでしまっているだけのことであり、時間の経過と共に、そういった不満がいつ頭をもたげてくるのか予断は許しません。
また、党首討論など、議論の場が増えれば増えるほど人びとの「理性」が醒めてきます。これまでの小泉政権はどうであったのかとか、郵政民営化以外の政治課題はどうするのだというところに関心が当然広がっていきます。小泉さんにとっては、それはまことに都合が悪いのです。政権政党でマスコミへにでる機会が圧倒的に多いことを利用した劇場型の戦略が崩れてきます。
それを物語るように、日数を経るとともに、各世論調査で自民と民主が比例で差が縮小してきたようです。
しかし、台風が来て、選挙以外の話題がニュースに流れました。台風の報道で選挙報道が減りました。おそらく、小泉さんにとっては神風になるような気がします。数日は選挙までの日数を短縮できたのと同じ効果がありますからね。天の声は、今回は小泉さんに勝たせておけということかもしれませんが、ひょっとすれば逆に『改革』の幻想を吹き飛ばして民主党に吉とでるかもしれません。はたしてどちらでしょうか。政界再編なくして改革なしと思うので、いまは政党には興味なしですが、紅組さんも、白組さんもしっかり頑張って、国民の関心を高めて下さいと願うばかりです。面白い競争は人びとの関心を高め選挙への参加を広げてくれますからね。結局は国民のレベルが政治のレベルを決めるのですから。

人気blogランキングへ