1週間を過ぎ、ニューオーリンズの被災者の人びとの移送はやっと一段落したとはいわれていますが、まだまだ現地には多くの人たちが残っているようです。ニューオーリンズの浸水は当面続き、メキシコ湾岸に位置する石油施設の復旧に至っては数年かかるといいます。

アメリカを襲ったハリケーン『カトリーナ』は、自然の脅威もさることながら、それよりもアメリカが抱えている暗い社会の現実をまざまざと見せつけたという衝撃も、いやそちらのほうが大きかったように感じます。
一週間を経てもいまだに8割が冠水したままというニューオリンズは、海抜ゼロメートル地帯、海よりも低い都市です。中規模のハリケーンでも防波堤が決壊すると警告されていたにもかかわらず対策がなされてこなかったというのは、日本にいると信じられないことです。おそらく財政の悪化という状況があったのかもしれません。だから市長はハリケーンの到来に危険を感じ、市民に逃げるように必死で命令したのでしょう。
しかし、誤算は、避難したくとも避難するすべを持たない人々がいたことでしょう。本当に貧しい人びとが大勢いることがクローズアップされました。ベンチャーで成功した人びと、株で一儲したひとびと、まさに勝ち組と負け組のはっきりした社会が進んだ社会とはいえ、ここまで貧しい人びとがおり、社会が痛んでいたことは想像の域を超えていたのではないでしょうか。
対策は後手後手となり、食料も水も支給されない日々がつづき、暴徒化していった人びと。銃をもたないと不安で動けず武装した人びと。放火され燃えるビル。他の州にすでに人びとが避難し、残された市中心部のスーパードームには、避難した後に熱中症や心臓発作で亡くなった人たち百人の遺体が横たわっていたそうです。
現地のビルにあるITの会社Directnicの人びとがオフィスに立てこもって映像とレポートを送り続けているブログのことががCNETで紹介されていました。そこにいる彼らがライブ映像で見ることが出来ますが、車の窓から自動小銃がのぞいている写真や、放火されぼえ上がるビルの写真などが掲載されています。しかし、何よりもこのブログにあった疲れ切った老人の表情はこの事態を伝えているように感じます。
また8月31日のエントリには、洪水の水が引かないだけでなく、ホテルでの略奪行為や車の窓を割って押し入ったり、ATM機を壊したりする人びとがあらわれたこと、9月4日にエントリーのなかには「橋で陸軍工兵隊の人びとが撃たれたと聞いているが、嘘の噂であって欲しい」といったことも書かれており、ニューオーリンズが無法の混乱した地帯になっていることが伝わってきます。

さて、アメリカは、双子、三つ子の赤字を抱えたうえに、イラクを制することができず、どんどん戦費の負担がのしかかってきています。多くの州兵がイラク戦争にかり出され、国内の災害にもまともに対処できない国になってしまったという信じがたい姿をさらけだしてしまっているのです。しかも、業界の圧力で規制ができない銃社会は、ひとたび混乱すると恐ろしい事態をさらに恐ろしくしています。
冷戦構造が崩れ、世界はアメリカを中心としたグローバリゼーションという新しい秩序を求めてきたわけですが、実際にはアメリカの求心力が衰え、多極化の方向に流れが変わってきています。今回のカトリーナの衝撃はさらに弱いアメリカ、痛んだアメリカを見せてしまいました。きっとさらに求心力を弱める象徴的な出来事になるような気がします。

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