マーケティングで一番大切なことは何かと聞かれたら、私はまっさきにマーケティング・マインドだと答えます。マーケティングは学問ではありません。もちろん、大学や大学院でマーケティングの理論や知識を学ぶことはできます。しかし.一番大切なマーケティング・マインドは実際の仕事や活動を通してでしか学んだり、磨くことができません。
いくら理論を学んだり、どんなに知識があっても、マーケティング・マインドがないと生きたマーケティングを実現することはできません。会社や事業だって同じです。マーケティング・マインドがないために、時代変化の荒波を受けて失速してしまった会社や事業がたくさんあります。
マーケティング・マインドは、自分で学ぶものです。マーケティング・マインドを持った先輩や上司の人たち、あるいは出会った人たちとともに働くことで体感し、また、お客さまから学びとっていくものです。マーケティング・マインドは、いくら言葉で理解しただけ、知識として知ったということだけでは、なんの意味もありません。ハートが問題なのです。ものごとを考えたり、判断する際のバックグラウンドとなる価値観とか哲学の問題です。
だから、逆にマーケティングをほとんど学んだことのない人でも、マーケティング・マインドを持った人はいくらでもいらっしゃいます。松下電器の創業者である松下幸之助さんは、きっとマーケティングという言葉とは縁遠い人だったと思います。しかし、「いい製品をつくるのではなく、お客さまから喜ばれる製品をつくりなさい」とおっしゃっていたそうです。まさにマーケティング・マインドです。いい製品というのは、生産者の価値観です。作り手の思いこみです。プロが考えるいい製品は、かならずしもお客さんが喜ぶ製品とは限りません。
ひとりひとりのお客さまに、さらに多くのお客さまに、仕事を通して喜んでもらえるようなことをしたいという素直な気持ち。そんな気持ちがあるひとは、もうすでに、マーケティング・マインドに持った人です。マーケティングの知識や理論をいくら学んでも、そういうハートがもてるとは限りません。
しかし、現実に立ち返ってみると、煩雑な仕事に追われ、また会社の複雑な事情がわかってくればくるほど、また責任が重くなってくればくるほど、いつのまにか、お客さまより、社内に気持ちが向いて行きかねません。回りの人たち、また上司の人たちとの軋轢を避けたい、無難に仕事をこなしたいという誘惑がおそってきます。よけいなことを言って、また仕事が増えるのは嫌だと気持ちも湧いてきます。そうなってしまった人は、いくらマーケティングの知識があったとしても、マーケティング・チームのメンバーとしてはふさわしくありません。