商法の改正で、キャッシュではなく、株の時価による交換で企業買収ができるようになります。2006年からだったと思います。バブルが弾けてから、このところ少し持ち直したとはいえ、日本の企業の株価は、欧米企業と比べて低く、恰好の「美味しい市場」になってしまう危うさがあります。
10000円の株価の企業が、2000円の株価の企業を買収をしようと思うと、1対5で株を交換してできるようになるということです。キャッシュも不要であり、株価が高い企業にとっては非常に有利な話です。株価が安いといつなんどき買収されるかわかりません。そういった時代に日本も突入するということです。

もちろん、経済界も経済同友会が中心となって、株価を上げていく研究をはじめたり、また昨日の日経によると、法務省も敵対的な企業買収から企業を守るための米国並みの防衛策を研究してきており、2006年には法整備をするという方針が打ちだされました。
さて、日経連の奥田会長のライブドア対フジテレビの攻防に対するコメントがあり、一部のマスコミは「ライブドアを批判」というタイトルで報道していましたが、実際にはライブドアとフジテレビ双方に苦言というのが正しいですね。
ライブドアへの苦言は、「企業を立て直したいという純粋な動機か、カネもうけのためか、動機と意図をはっきり説明すべきだ」と説明責任を求められたことと「堀江氏はカネがあれば何でもできるというような本を出している。そういう人がああいうことをすると道徳的におかしいとの批判が出る」というもので、一方フジテレビには、「ニッポン放送をどうすべきか十分考えておくべきだった」、「(同じような買収劇は)今後必ず起こる。経営者は買い占められたら困ると日々反省し、防衛策を十分考えておくべきだ」という苦言でした。
ライブドアの堀江さんの発言はブログでもかなりの批判があります。発言が、あまりにも本音の直球であり、洗練されておらず、反発を買うことは否定できません。力ずくでぐいぐいやっていくタイプであり、市場で人気があるものに価値があるという考え方、徹底した市場主義の人です。だから、このブログに寄せられたコメントやトラックバックでも評価は分かれています。産経新聞が社説で展開した報道理念中心主義の考え方とは正反対の人です。

それはさておき、注目したいのは、フジテレビ側への苦言です。企業買収の恰好の餌食になりやすいのは「小売」「薬品」「メディア」「金融」だと以前から言われいました。フジテレビ経営陣が知らなかったとはいわせません。実際、マードック-ソフトバンク連合が全国朝日放送を買収しようとした例もありました。それにしては、フジテレビにしても大和証券SMBCに気のゆるみがあったということでしょう。情報に敏感なはずのメディアとしては、世間様にご意見申す前に、自分たちの足下を固めておく必要があったということです。それをやんわりと奥田会長はおっしゃたのだと思います。そういえば、奥田会長は80年代後半に小糸製作所に対する米国の投資家ブーン・ビケンズ氏による敵対的買収と闘ったひとですから説得力があります。
読売もYomiuri Weeklyで、「無防備フジテレビの恥辱」と書き、フジテレビの脇の甘さを批判しています。まあ、フジサンケイグループからすれば、「あんたには言われたくない」でしょうが・・・。いずれにしても、ライブドア批判はあるにしても、フジテレビへの同情もあまりありません。小糸製作所のケースと大きく違うところです。経済界もヒステリックには反応していません。

実際には、ライブドアとフジテレビの攻防の裏側でリーマン・ブラザース証券と大和証券SMBCの攻防があるわけですが、今のところ「したたかさ」「スピード」で勝負になっていないように感じます。よほどの起死回生策、たとえば村上ファンドがフジテレビの公開買い付け(TOB)に応じるという事態がなければ、最終決着は長期化するとしても、すでに勝負はついたという感すらあります。まあ、事実は小説より奇だといいますから何が起こるかはわかりません。

いいたいことはグローバリゼーションというのは言葉の響きはいいのですが、それはサッカーでいえばワールドカップに出場するようなものです。世界の舞台では、激しいぶつかり合いがあり、反則ぎりぎりのきわどいプレイも当たり前です。しかしルールは厳然としてあります。ルールがもっとも重要なのです。違反すればペナルティも、イエローカードもレッドカードもあります。資本市場も同じです。お互いの利害を求めてしのぎを削る世界です。ルール以外での裁定はできないのです。商品やサービスのマーケティングとは違う世界です。

モノの世界では、多くの分野で世界を制した日本ですが、金融もメディアも護送船団方式でやってきて、それが経営力を弱めてきたように感じます。金融は大きな荒波を受け、やっと新しい道、ビジネスモデルを模索するようになりました。メディアも、ちょっと質の低下が気になってきました。一度、大きな激震を受けた方が健全な進化、新しいビジネスモデルの創造が起こってきそうな気がしてなりません。普通の会社はいつも荒波と激震に耐えてやっているのですから、メディアの世界にも、そろそろ時代の変化に向き合う普通の会社がでてきてもいいのではないでしょうか。今回がいい教訓となって、各社の買収に対する備えも強化されてくると思います。
願うのは、敵対的買収に対する備えだけでなく、既得権益や報道の理念だけにしがみつかず、インターネット時代に向かった新しいビジネスモデルづくりにまともにチャレンジして欲しいということです。

ついでですが、ライブドアニュースで、いまなお、産経新聞の記事が配信されているのはなかなかの眺めですよ。

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